鼻ポリープ切除、ステロイド投与後に再発、新たな治療法の開発が課題
大阪大学は2月6日、セマフォリンというタンパク質が、鼻ポリープを形成する難治性のちくのう症である「好酸球性副鼻腔炎」の病態形成に重要な役割を果たしており、治療の標的となることを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院医学系研究科の西出真之助教、津田武医師、猪原秀典教授、熊ノ郷淳教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国アレルギー・喘息・免疫学会の機関誌「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」に掲載されている。
好酸球性副鼻腔炎は鼻ポリープを高い確率で合併し、多くの患者は鼻づまり・どろどろの鼻汁・嗅覚の障害を訴える。日本では、中等度から重症以上の患者の数が約2万人存在するといわれている。内視鏡により鼻ポリープを切除する手術や、ステロイドの投与などが行われるが、一度治療した後の再発率が高く、正確な病態の理解に基づいた安全かつ効果的な治療方法が求められている。
セマフォリンは、神経発生を誘導する因子として発見されたタンパク質。近年は腫瘍免疫や、骨代謝・自己免疫疾患との密接な関連が報告されている。さらに好中球などの「顆粒球」と呼ばれる白血球におけるセマフォリンの機能もここ数年で明らかになり、血管炎やアレルギー疾患に対する創薬ターゲットとしても注目されている。しかし、難治性副鼻腔炎におけるセマフォリンの効果は不明のままだった。
セマフォリンの血中濃度が高いと重症かつ難治性
研究グループは、好酸球性副鼻腔炎の患者の血液から「セマフォリン4D」(以下、SEMA4D)との関わりを調べ、治療の標的となるかを検証した。SEMA4Dは、通常はいろいろな細胞の膜表面に分子として存在しているが、細胞表面で刺激を受けて切断される。切断された遊離型のSEMA4Dは、細胞間のシグナル伝達にかかわっている。
検証の結果、患者の血中で遊離型SEMA4D濃度が上昇しており、その濃度が重症度に相関していることが発見された。また、患者の白血球において、好酸球特異的に膜型SEMA4Dが減少しており、好酸球上のSEMA4Dが切断され、膜上の発現が低下、その結果として血中の遊離型SEMA4D濃度が上昇していたこともわかった。好酸球性炎症において遊離型SEMA4Dがどのような役割を持っているかを検証するため、鼻腔上皮細胞株に対する刺激実験を行った結果、SEMA4Dは鼻腔上皮細胞において細胞内タンパク質のRhoAの活性化を介した、透過性の亢進に寄与することが示された。
これは、好酸球上に発現しているSEMA4Dが、好酸球の活性化に伴って細胞から遊離し、SEMA内皮細胞や鼻腔の上皮細胞に働きかけ、血管や上皮の結合を緩めて好酸球を通り抜けやすくすることが、アレルギー反応を悪化させ、鼻ポリープの形成に関与していることを示している。さらに、SEMA4Dは、インターロイキン6(IL-6)などの炎症を引き起こすさまざまな分子(サイトカイン)を上皮から分泌させることも判明した。これらを踏まえて、好酸球性副鼻腔炎の動物モデルにおいて、SEMA4Dに対する抗体を用いて中和実験を行ったところ、好酸球性炎症が軽快することを見出した。「この結果から、血中の遊離型SEMA4D濃度は、好酸球性副鼻腔炎の病勢を反映するマーカーとして有用であり、好酸球由来のSEMA4Dはアレルギー炎症を増悪させる因子として、好酸球性副鼻腔炎における新たな治療ターゲットとなることが考えられる」と、研究グループは述べている。
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