CKD患者の低BMIが生命予後不良と関連
横浜市立大学は2月6日、漢方薬「六君子湯(りっくんしとう)」が胃でのグレリン産生、腎臓でのグレリン受容体の発現増加、Sirtuin1活性化などの多面的な作用により、慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)克服の鍵となる体重減少の改善効果をもたらすことを、慢性腎臓病モデルマウスを用いて発見したと発表した。この研究は、同大医学部循環器・腎臓・高血圧内科学の涌井広道講師、医学研究科大学院生の山地孝拡医師、日本学術振興会海外特別研究員の小豆島健護博士、畝田一司客員研究員、田村功一主任教授らと、株式会社ツムラとの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
CKDの患者数は年々増加しており、日本人のCKD患者数は約1330万人と推計され、成人の約8人に1人はCKDだといわれている(日本腎臓学会『診療ガイドライン2018』)。CKDでは、尿毒素の蓄積、代謝亢進、炎症、酸化ストレスなど複数の要因が関与して、エネルギー源(体脂肪)が減少する消耗状態であることが知られている。実際に、末期腎不全により透析療法を施行している患者では、BMIが高い方が生命予後良好であり、この現象は「肥満パラドックス」と呼ばれている。近年、保存期(透析未導入)のCKD患者においても低BMIが生命予後不良と関連していることが報告されている。
また、CKDでは尿毒素の蓄積や炎症の亢進状態に加え、患者の高齢化も相まって体タンパク(骨格筋)が減少するサルコペニアを来たしやすく、逆に運動療法などによる適切な筋力の維持は腎臓の炎症を抑制し、腎保護作用を発揮する可能性がある(筋腎連関)。そのため、CKD患者では、生命予後改善のために十分なカロリー摂取と筋力・体重維持が重要であり、課題だ。
一方、漢方薬「六君子湯」は、消化・栄養吸収系の異常に対して使用されてきた歴史的経緯を有し、その機序として食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用が示されている。さらに、近年、グレリン受容体は視床下部のみならず、腎臓などの末梢臓器にも発現し、グレリン投与は腎臓局所での炎症を抑制することが報告されている。したがって、六君子湯は、栄養障害の改善・抗炎症作用を発揮して、CKDにおける有用な治療手段となる可能性がある。しかし、六君子湯がCKD病態下において、実際にどのような効果をもたらすかはよくわかっていなかった。
腎臓でのグレリン受容体発現増、Sirtuin1活性化を介した抗炎症作用を確認
研究グループは、まず、アンジオテンシンII投与腎臓障害モデルを用いて、六君子湯がグレリン受容体の主要な下流経路であるSirtuin1を活性化させ、腎臓の炎症を抑制することを明らかにした。また、今回、片側尿管結紮術(UUO)による腎臓障害モデルを用いて、六君子湯が腎線維化進行に伴う体重減少を改善するかどうかを検討。その結果、このモデルにおいて、六君子湯投与は腎線維化に対する明らかな抑制効果を認めなかったものの、腎障害の進展に伴う体重減少を抑制することが示された。六君子湯投与により、腎臓でのグレリン受容体の発現量の増加も認めたという。これらの結果から、六君子湯はCKD病態下において、腎臓でのグレリン受容体発現の増加、Sirtuin1活性化を介した抗炎症作用とともに、CKD患者の生命予後改善の鍵である体重減少抑制効果を発揮する可能性が示された。
今回の研究成果により、有効な治療薬の開発が重要課題であるCKDにおいて、今後、漢方薬「六君子湯」がCKD治療戦略のひとつとなり得ることが期待される。加齢によって腎機能が低下し、全身の筋肉量の低下などから患者のQOLが低下することは近年重要な問題として取り上げられており、CKD患者の生命予後に関連する体重減少に対して、漢方薬「六君子湯」がその改善の手助けになることが期待される。研究グループは、今後、漢方薬「六君子湯」のCKDにおける臓器連関作用機序についてさらに詳細に明らかにするとし、CKD患者さんへの臨床応用も期待される、と述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース