患者数は増加しているが、的確な治療法が確立されていない自閉症
神戸大学は2月6日、無麻酔マウスのfMRIを用いて自閉症モデルマウスの脳機能異常の可視化に成功したと発表した。これは、同大大学院医学研究科の内匠透教授(理化学研究所脳神経科学研究センターチームリーダー)、フランスニューロスピンの釣木澤朋和研究員、メルボルン大学らの国際共同研究グループによるもの。米国科学誌「Science Advances」に掲載されている。
画像はリリースより
自閉スペクトラム症(自閉症)は、社会的相互作用やコミュニケーションの欠如、活動・行動・興味の限局・繰り返しを特徴とする発達障害。患者数は指数関数的に増加しているにも関わらず、的確な治療法は確立されておらず、その病態解明は少子化に悩む日本にとって喫緊の課題だ。自閉症のヒト遺伝学および動物モデルの研究は急速に進歩しており、自閉症動物モデルによる病態メカニズム解明が期待されている。
自閉症の原因として「コピー数多型」と呼ばれるゲノム異常が知られているが、15q dupマウスは、世界で最初のコピー数多型によるヒト型自閉症モデルマウスとして確立された。同モデルマウスは社会性行動、シナプス、セロトニン等の異常を示すことがわかっていたが、脳全体の機能的結合に関しては、これまで詳細に調べられていなかった。
全脳での脳機能計測を可能にする技法として、機能的MRI(functional MRI, fMRI)が挙げられる。しかし現在、マウスfMRIは主に麻酔下で行われている。麻酔はfMRIの信号源である神経活動に付随する脳局所血流変化(Neurovascular coupling)だけでなく、意識レベルも低下させるため、マウス麻酔下fMRIとヒト覚醒下fMRIでは比較が難しいと考えられている。
疾患による脳機能異常メカニズムの包括的な解明に期待
研究グループは、無麻酔fMRIを遂行するため、マウス用の頭部固定器具、送受信コイルおよびベッドを作成。撮像中のストレスを極力抑えるため、特殊な耳栓によりMRI撮像中のノイズを遮断し、順化トレーニング法を開発した。匂い刺激を提供する導管とマスクを頭部固定装置に導入し、MRI撮像中に他者の匂いによる刺激を与えた。健常マウスでは、他者の匂い刺激により嗅球、青斑核を含む領域や視床などの中継核、そして記憶に関与する海馬の活動上昇が見られた。一方、15q dupマウスでは嗅球以外の領域に活動が認められなかった。
さらに、安静時fMRIを用いて、脳領域の機能的結合(functional connectivity)を調べたところ、15q dupマウスでは広範囲に渡って機能的結合の低下が認められた。次に、これらの機能異常が神経構造の異常によるものかどうか調べるため、拡散テンソル画像Diffusion tensor imaging(DTI)を用いて解剖学的結合を調べた。15q dupマウスでは解剖学的結合も広範囲に低下しており、機能的結合とある程度の相関が認められた。
続いて、D-cycloserine(DCS)はグルタミン酸(NMDA)受容体に作用し、自閉症患者の症状を軽減するという研究報告があることから、15 dupマウスにおいても症状を軽減させるのか調べた。その結果、DCS投与により社会的相互作用の異常が軽減され、さらに、脳機能異常も前頭野を中心として、部分的にではあるものの改善することがわかった。
MRIの利点は、マウスからヒトまで同じ撮像法で非侵襲的に計測が可能なことである。無麻酔fMRIを用いることで、疾患モデルマウスの認知機能に関する領域の機能異常を計測することが可能となり、ヒトの臨床MRIデータと直接的に比較することが可能となる。
また、他の侵襲計測法(免疫抗体染色、遺伝子改変、神経活動記録など)と組み合わせることで、疾患による脳機能異常のメカニズムを、遺伝子レベルからネットワークレベルまで包括的に解明されることが期待される。
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