既報の予測法「iPGM」を用いて、一般住民を対象に脳梗塞発症リスクを検証
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)は2月4日、遺伝的体質と脳梗塞発症の関連を調査し、ゲノム情報に基づく脳梗塞発症のリスク予測法(iPGM)の有用性を示したと発表した。これは同機構生体情報解析部門の清水厚志教授と、九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治教授を中心とした研究チームによるもの。研究成果は、国際科学雑誌「Stroke」に掲載されている。
画像はリリースより
脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に分類され、脳卒中による死亡のうち、脳梗塞が60%を占める。また、死に至らずとも、寝たきりなど要介護の原因になるため、医療的に重要な問題となっている。国内外のこれまでの研究により、脳卒中のリスクと関連する32個の遺伝子座が明らかになっていたが、それらの遺伝子座の情報を用いて脳梗塞発症を予測しても、その予測精度は高くない。
IMMは、遺伝統計学的な解析手法を駆使し、脳梗塞との関連性が不確かな遺伝子座を含め、より多くの遺伝子座(約35万7,000 個の遺伝子座)の情報を加味して脳梗塞発症のリスク(遺伝的スコア)を計算する手法iPGMを2016年に開発・発表。その発表では、脳梗塞患者群と健常者群のデータにおいてiPGMを用いて計算された遺伝的スコアは、脳梗塞発症と有意に関連することを報告していた。この成果は症例対照研究から得られたため、この関連についてより質の高いエビデンスを得るためには、地域一般住民を対象にした前向きコホート研究での検討が必要だった。そこで今回の研究では、iPGMを用いて計算された遺伝的スコアと脳梗塞発症の関連について、世界で初めて、地域一般住民を対象とした前向きコホート研究で調査した。
遺伝的スコアは、高血圧や糖尿病、喫煙などと同程度のリスクを示すことが判明
福岡県久山町の40 歳以上の住民3,038 人(うち脳梗塞発症者は91人)を対象とし、 iPGMで算出された遺伝的スコアにより 5 群に分類し、分類群ごとに脳梗塞発症のリスクを推計した。その結果、遺伝的スコアが最も高い群(遺伝的スコアが上位 20%の対象者、5人に1人が該当)は、遺伝的スコアが最も低い群(遺伝的スコアが下位 20%の対象者)と比べて、脳梗塞発症のリスクが2.4倍高いことがわかった。また、疾病発症に関わるとされる因子(高血圧、糖尿病、喫煙など)の影響を取り除いて分析をしても、同様の結果が得られた。このことから、iPGMによる遺伝的スコアは、既知のリスク因子と独立して、脳梗塞発症のリスクと関連していることが明らかとなった。
さらに、遺伝的スコアの下位40%(Q1、Q2)を遺伝的スコア低値群、遺伝的スコア上位 60%(Q3~Q5)を遺伝的スコア高値群として詳細に分析した結果、遺伝的スコア高値群は、遺伝的スコア低値群に比べて、脳梗塞発症のリスクが1.63倍高いことがわかった。遺伝的スコアによる脳梗塞発症のリスクの違いは、高血圧の有無によるリスクの違い(1.41倍)、糖尿病の有無によるリスクの違い(1.72倍)、喫煙によるリスクの違い(1.54倍)と同程度であった。このことから、脳梗塞発症のリスク評価に、遺伝的スコアが有用である可能性が示された。
また、遺伝的スコア低値群でリスク因子が0個の人に比べ、遺伝的スコア低値群でリスク因子が2個以上では脳梗塞発症のリスクが1.62倍高いこと、遺伝的スコア高値群でリスク因子が2個以上では3.03倍のリスクがある一方、遺伝的スコア高値群でリスク因子が0個では1.18倍のリスクに留まることがわかった。このことから、遺伝的スコア低値群、遺伝的スコア高値群のどちらにおいても、リスク因子の個数が増えるほど、脳梗塞発症のリスクが高くなることが明らかになり、遺伝的リスク高値群であっても、修正可能なリスク因子の個数を減らすことで、脳梗塞発症のリスクを低減できる可能性が示された。
今回用いたiPGMでは、約35万7,000 個の遺伝子座の情報を用いるが、これらのデータはDNAマイクロアレイ法を用いて廉価(サンプル当たり1万円未満)に測定が可能。この手法を用いて一人ひとりが自身のリスクを知り、生活習慣の改善などに役立てることで、脳梗塞の予防に寄与できる可能性がある。「将来的には、脳梗塞以外の生活習慣病のリスク評価にも遺伝的体質を加味することで、一人ひとりの体質に合わせた個別化医療・個別化予防の実現が期待される」と、研究グループは述べている。
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