クラスII医療機器として承認された「MIPS」
日本医療研究開発機構(AMED)は2月3日、プロジェクションマッピングの技術を応用し、患者の体表や臓器にリアルタイムで直接手術ガイド情報を投影できる新システム「Medical Imaging Projection System:MIPS(ミップス)」を開発したと発表した。この開発は、三鷹光器株式会社、京都大学医学部附属病院、パナソニック株式会社の研究グループによるもの。MIPSは、2019年11月20日に「一般名称:ICG蛍光観察装置」としてクラスII医療機器の製造販売承認されている。
以前より、術前に取得したCT・MRIなどの体組織情報をもとに、病巣の位置確認などのシミュレーションや術中ナビゲーションを行う機器が開発されてきた。しかし、術中の体組織変形などによる位置ズレに対しては課題があり、リアルタイムな手術ガイドは困難だった。
近年、蛍光薬剤のインドシアニングリーン(ICG)を使用した蛍光ガイド手術により、血管および組織の血流評価、乳がんや悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節の位置の同定を簡便かつ低侵襲に行うことができ、外科領域において臨床応用が広まっている。肝臓外科分野では、肝がん患者の肝区域切除術を行う際にがんが存在する肝区域の血流を遮断し、その後ICGを血中に注入することで、切除するべき肝区域と温存する組織の切離ラインを赤外線カメラで描出している。また、乳腺外科分野では、がん細胞の転移を検査するためのセンチネルリンパ節生検を行う際に、肉眼では判別することが困難なリンパ節の探索に広くICG蛍光ガイド手術が用いられている。一方で、現在の手術法では、外科医(術者)が近赤外蛍光画像を術野ではなく、外部のモニター画面上でしか確認できず、頻繁に術野から目を離しモニターを確認する必要があるため、術中ガイド機器として正確性と操作性に課題があった。
画像はリリースより
血流情報等をプロジェクションマッピング技術で直接臓器に投影
今回開発されたシステムでは、プロジェクションマッピング技術を用いて近赤外蛍光観察で得た体組織の血流情報等を直接臓器に投影する。そのため、術者は患部に集中することができ、プロジェクションマッピングによる今までにない直観的なリアルタイムガイドと、状況に応じて自在に装置を的確に患部に向けることができるアームシステムを使用することができる。
研究グループは、蛍光観察カメラとマッピング用のプロジェクターを同軸光路上に配置することで、患部観察情報と投影映像にズレ(±2mm以下)が生じない仕組みを開発。臓器の移動や体組織の変形にリアルタイム(0.2秒以内)に追従し、直視下での手術継続を実現可能にしたという。同システムの使用により、手術の安全性向上が期待でき、手術時間の短縮や出血量の減少、臓器機能の温存など手術の負担を減らすことができる。これにより、術後の回復もスピードアップが期待される。
手術時間の短縮・出血量の減少により、予後改善やQOL向上に期待
近年、ICGなどの蛍光ガイド技術は、国内外の学会・研究会で多くの注目を集めており、学術論文の掲載数も急激に伸びている。日本はこの分野においての先進国であり、海外展開においてアドバンテージを有している。さらに日本国内ではICGの保険適用の範囲について、従来「肝機能検査、循環機能検査、乳癌・悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節の同定」という効果・効能であったものが、2018年に「血管及び組織の血流評価」まで保険適用が拡大された。そのため、ICG蛍光法を用いた蛍光ガイド手術法は、今後さまざまな診療科での応用が期待されており、より安全で正確な手術の支援による手術時間の短縮・出血量の減少により、がんの予後改善、QOL向上への貢献が期待されている。
研究グループは、世界初のプロジェクションマッピングを応用したリアルタイム手術ガイドシステムは大きな可能性を秘めており、今後の発展が期待されているとし、まずは日本国内で実績を集め、順次海外展開を計画していると述べている。
▼関連リンク
・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース