■バイオ後続品の普及促進を
元バイエル薬品会長の栄木憲和氏は、薬事日報のインタビューに応じ、国内で抗体医薬品や再生・遺伝子細胞治療医薬品など高額医薬品の上市が続く中、社会保障制度を維持するためには「現在の医療システムとは切り離した高額医薬品の薬価制度の運用が必要になるのではないか」と提言した。高額医薬品にカテゴリーされる薬剤が医療費支出全体の5%以上になると危険水域、10%以上になると社会保障制度に甚大な影響を与えるとの米国の研究成果を踏まえ、「バイオ後続品の普及と合わせて高額医薬品への対応策を早急に考えるべき」と訴えた。
高額医薬品をめぐっては、2014年に抗癌剤「オプジーボ」、その後にC型肝炎治療薬「ソバルディ」、抗癌剤「キイトルーダ」が相次いで登場し、さらに昨年にはキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法「キムリア」が上市された。売上規模の拡大に応じて薬価を引き下げる新たな再算定ルールで歯止めをかけるものの、革新的で高薬価の医薬品が多く登場してくる中長期的な制度の道筋は見えていない。
栄木氏は、「現在の社会保障制度を考えると薬価を抑制する考え方は理解できる」との考えを示す。米国での研究報告を紹介し、「年間1000万円以上に上る高額医薬品が薬剤費支出全体の5%以下に制御できれば、社会保障制度への影響はさほどないが、これが5~10%の割合まで高まれば危険水域、10%を超えると破綻を迎える」と警鐘を鳴らす。
米国では脊髄性筋萎縮症治療薬「ゾルゲンスマ」が単回注射完結型で2億3000万円の薬価がついたが、5年の割賦払いと成功報酬に基づく支払いが認められているという。開発競争が進むCAR-T療法は血液癌から固形癌へと移行し、使用患者の増加が見込まれるため、「日本でも成功報酬型での支払い制度を導入するなど医療システムとは切り離した運用が必要になってくる」と柔軟な運用を求めた。
医療費を削減するためのアイデアでは、▽薬剤に奏効する患者を事前に選別するデジタルバイオマーカーを用いた個別化療法の推進▽人工知能(AI)技術を活用し、開発プロセスの効率化につながるコンピュータ上でのインシリコ創薬▽バイオ後続品の浸透――の三つを挙げた。特に強調しているのがバイオ後続品の浸透策だ。
バイオ後続品は、低分子医薬品よりも高薬価で上市製品数の増加が見込まれる。国内製品を見ると、昨年5月時点でインスリングラルギンやリツキシマブはバイオ後続品の使用割合が高い一方、インフリキシマブ、エタネルセプトを選択する患者は約1割にとどまっていたという。
栄木氏は「医療現場でバイオ後続品を使うインセンティブが乏しい。バイオ後続品の患者負担額も大きい。行政が旗振り役となりバイオ後続品の使用促進策を進めるべき」と主張。
その上で、「米国では低分子後発品の使用割合を90%にするまでに約30年がかかった。日本は米国と同じスタートラインからわずか10年程度で80%まで引き上げるところまで来ている」と述べ、低分子後発品での成功事例を土台にすれば実現できるとの見方を示す。
一方、国内医薬品産業の競争力強化に向けては、アカデミア主導で再生・遺伝子細胞治療領域の新薬創出を重要視した。「日本のアカデミアは基礎研究力では優れているが、知的財産を活用してビジネスに結びつける力が弱い。米国のようにベンチャーキャピタルや医薬品開発製造受託機関(CDMO)の支援が必要になる」と話す。
再生・遺伝子細胞治療領域では世界的な競争が進む中、アステラス製薬による米オーデンテスの買収を高く評価。
ただ、「日本で実施されている遺伝子治療の臨床試験は韓国・中国よりも数が少なく、米国からは周回遅れの状況にある。M&Aやパートナリングなどあらゆる手段を通して早い段階で肩を並べられるようにしないといけない」と語った。