旧型インプラントでは、破損や波うち変形などのリスクも
京都府立医科大学は1月30日、患者の細胞を用いて機能的な血管構造を有するミニサイズの乳房の再構築に成功し、小動物への移植実験で高い生着率を示すことを確認したと発表した。この研究は、大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授、凸版印刷株式会社(先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座)のFiona Louis(フィオナ ルイス)特任研究員、同大大学院医学研究科形成外科の素輪善弘講師の研究グループによるもの。
これまで、乳がん摘出後の乳房再建術では、シリコン製のインプラントを用いた再建が主流だった。しかし、日本の健康保険で唯一認可されていたアラガン社製のインプラントがブレスト・インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)の発生に関連しているとして、アメリカ食品医薬品局(FDA)の指示で2019年7月24日に世界中で販売停止、自主回収となった。この事態に対し、一般社団法人日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会は緊急声明を出しており、現在は代替となる旧型のインプラントが一部利用できるようになったが、破損や波うち変形などを引き起こすリスクが不安視されている。また、患者自身の脂肪細胞を採取して注入する自家組織再建術も行われているが、その生着率は患者背景でバラツキがあり、課題となっている。移植のたびに、患者に負担が生じるという問題もある。
画像はリリースより
従来の吸引脂肪組織と比較して約2倍高い生着率、小動物皮下への移植で確認
今回、研究グループは、I型コラーゲンのマイクロ線維(CMF)を用いた独自の沈殿培養技術を応用し、血管網を持つミニサイズ(約900μm)の乳房の再構築に成功した。CMFが脂肪細胞と脂肪由来幹細胞、血管内皮細胞の足場として機能し、実際に血管網が細胞へ栄養と酸素を供給する。約100個のミニ乳房を小動物皮下へ移植することで自発的に集合体を形成し、従来の吸引脂肪組織と比較して約2倍高い生着率が確認された。患者由来の細胞を用いるため、高い安全性が期待されるという。
今回の研究成果は、従来の脂肪細胞注入法や販売停止となったインプラントに代わる、高い安全性と生着率を有する新しい乳房再生医療技術となることが期待される。研究グループは、今後、実用化を目指して研究を進めていくとしている。
今回の研究は、JST未来社会創造事業で得られた成果を応用して行われた。JSTは、平成29年度より、社会・産業ニーズを踏まえ、経済・社会的にインパクトのあるターゲット(出口)を明確に見据えた技術的にチャレンジングな目標を設定し、実用化が可能かどうか見極められる段階を目指した研究開発を実施する事業として未来社会創造事業を行っている。
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・京都府立医科大学 プレスリリース