PD-1阻害抗体は無効例も多く、効果予測マーカー開発が望まれている
京都大学は1月31日、肺がん患者の血液でPD-1阻害抗体の効果を判定する方法を発見したと発表した。この研究は、同大高等研究院の本庶佑副院長・特別教授、医学研究科の茶本健司特定准教授、波多江龍亮研究員(現・九州大学脳神経外科助教)らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「JCI Insight」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
PD-1阻害抗体の登場により末期がん患者の長期有効例や完治例がみられ、がん治療のありかたが大きく変化した。一方、無効例も多く存在し、PD-1阻害抗体治療の効果を予測するバイオマーカーの開発が期待されている。腫瘍免疫は、文字通り腫瘍側と免疫側の両方の要因によって制御されるが、これまでのバイオマーカー探索は、腫瘍側の要因を調べる研究が主であり、免疫側の要因に関する研究は多くなかった。
本庶研究室ではPD-1とPD-L1の結合を阻害することで、免疫細胞が活性化しがんを縮退するがん免疫治療法の開発を一貫して行ってきた。現在ではこの「PD-1阻害がん免疫治療法」がヒトの各種がんで幅広く実用化されている。近年、免疫細胞の活性化には免疫細胞のエネルギー代謝状態が深く関係していることがわかってきた。そこで研究グループは、PD-1阻害抗体で治療を受けた肺がん患者の血中免疫細胞のエネルギー代謝状態や血中代謝産物を調べることが、PD-1阻害抗体に無効な患者を見分けるバイオマーカーになるのではないかという仮説を立て検証した。
血中4項目の組み合わせで、PD-1阻害抗体の効果を非常に良く判定
まず、PD-1抗体で治療を受けた肺がん患者から治療前後の血液を採取。血漿の247項目の代謝産物を調べた結果、PD-1抗体投与後4週までに採取した血漿中の腸内細菌由来代謝産物(hippuric acid)、エネルギー代謝関連代謝産物(butyrylcarnitine)、活性酸素関連代謝産物(cystine, GSSG)から成る4項目の組み合わせが、PD-1抗体の効果を良く判定できることが判明した。
さらに血液のT細胞を調べた結果、治療投与後2週までのT細胞の疲弊度合い、T細胞ミトコンドリアの活性化度合いに関連するマーカーとヘルパーT細胞頻度から成る合計4項目の組み合わせが、PD-1阻害抗体の効果を非常に良く判定できることがわかった。相関解析の結果、これらの血漿中の代謝産物とT細胞の活性化及びエネルギー代謝状態は強く相関していることも確認。これらの強い相関関係により、調べた全代謝産物と全T細胞マーカーから、最終的には上記のT細胞マーカー4項目が最も判定効果の高いバイオマーカーとして選ばれた。以上の結果は、患者の血液を調べることで免疫細胞の活性化とエネルギー代謝状態がわかり、PD-1阻害抗体の効果予測ができる可能性を示しているという。
有効なバイオマーカーの開発は、患者に最適な治療法を提供することにつながる。これまでの腫瘍要因を中心としたバイオマーカーは腫瘍を採取する必要があり、侵襲性が高いものだった。研究グループは、「今回の研究で同定した血液中のバイオマーカーは、患者にとって負担が大きくない採血のみで検査が可能であり、実用化に向け大規模な研究が望まれる」と、述べている。
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・京都大学 研究成果