■DIAが会議
癌領域の医薬品開発で日本の地位が揺らいでいる。世界同時開発が進む中、アジア諸国が治験インフラを整備し、治験実施国として名乗りを上げている。これらの国に対抗していくためには、治験に参加する患者1人当たりのコスト低減や症例登録のスピード向上をどう実現していくかが今後の課題だ。1月31日にDIAジャパンが開催した会議では、登壇した演者からアジア地域での抗癌剤開発の現状が紹介され、臨床試験で日本が除外される危機意識を共有した。
外資系製薬企業の立場としてノバルティスファーマの関根恵理氏は、「世界の治験コスト全体の約1割が日本に投資されているが、癌領域では国際共同治験に参加した施設で全体の7%、症例数は3%にとどまり、投入したリソースに対する生産性を達成できていない」との問題点を指摘した。
さらに、プロトコル承認から試験開始までの期間についても、米国の3.7カ月に対し、日本は6.4カ月と2.7カ月の差が生じているなどスピードでも遅れを取り、国際共同治験の国別症例数にも影響が出ているという。関根氏は、治療の一環として患者が治験に参加する免疫チェックポイント阻害剤を引き合いに、「日本も計画に沿った形で症例登録を進めることができている。しかし、海外では予測した症例数を大幅に超えて登録が進む国があるのに加え、近隣のアジアでは日本よりも後に治験を開始したのにも関わらず、トップスピードで目標症例数を達成している国もある」と治験症例の獲得をめぐり世界的な競争にさらされている現状を説明した。
ただ、同社でも日本で抗癌剤のグローバルFIH試験を実施し、最初の症例登録はグローバルからわずか約1カ月遅かった程度で、「日本で実施するFIH試験でもグローバルで最初の症例登録は可能」と述べた。日本でFIH試験を実施した施設については、「スーパーカーのような施設で、F1ドライバーのような医師がいて、F1のピットのような関係者がいたからできた」とし、トップレベルの実施体制が必要との考えを示した。
北里大学病院の熊谷雄治氏は、アジアで抗癌剤の臨床試験を実施できる国として韓国、台湾、中国、マレーシアの4カ国を挙げた。「これら4カ国では韓国がトップを走っており、国が治験を実施した医療機関や電子カルテの情報を集積したデータベースを構築している。台湾も抗癌剤の臨床試験ではエキスパートと言える存在にある」と説明した。
中国については、「北京や上海で癌領域の第I相試験に対応した施設が増えており、今後もユニット数が増加する」と予測。さらにマレーシアは臨床試験推進に向けた公的機関を立ち上げ、「インフラ整備や教育を通じて、国際共同治験の誘致を進めている」と評価した。
一方、治験のコスト高が問題だと指摘されている日本については、臨床試験の実施費用に関する調査から「他の国よりも安い」との結果を明らかにした。台湾や豪州、香港、シンガポールに比べても低く、「皆が思っているほどコストは高くなく、むしろ安いくらい。アジアの国が努力しているように日本も努力している」と語った。