心臓血管病と腎臓病は密接に関与も、分子レベルのメカニズムは未解明のまま
筑波大学は1月27日、認知機能障害やてんかん発作を標的として開発された、ヒスタミン受容体アゴニストの「イメトリジン」(Immethridine dihydrobromide:Imm)が、心腎連関の病態を改善することが明らかになったと発表した。これは同大生存ダイナミクス研究センターの深水昭吉教授、医学医療系の山縣邦弘教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.」に掲載されている。
画像はリリースより
心不全などの心血管疾患や、慢性腎臓病による腎不全は主要な死因である。心臓血管病患者では高確率に腎機能障害を併発し、心臓血管病患者にとって慢性腎臓病併発が最も強力な予後不良因子であることが疫学的に認められている。また、慢性腎臓病患者は心不全に代表される心臓血管病を高確率に合併する。「心腎連関」とは、このように心臓血管病と腎臓病は密接に関与して相互に影響し合うことから認識された概念である。
治療へのアプローチや心腎病態のメカニズムを理解する要素として、レニン・アンジオテンシン系、交感神経系、酸化ストレスや炎症などが挙げられているが、有用な病態モデル動物の開発や創薬標的の検証が進展していなかったため、心腎連関の根底にある分子の仕組みは明らかになっていない。
病態モデルマウスを開発、Immの投与で心臓と腎臓の病態が改善
研究グループはまず、血圧上昇ホルモンのアンジオテンシンIIを投与し、片腎摘出、食塩水負荷によって心機能低下や心肥大といった心不全を呈するマウス(以下、ANSマウス)を作成し、腎臓の機能変化について解析した。その結果、ANSマウスは心不全に加え、腎尿細管障害や糸球体の構造異常が認められ、タンパク尿を伴う慢性腎臓病の所見を示したことから、ANSマウスが心腎連関病態を解析する上で有用なモデルであることがわかった。
次いで、ANSマウスの血中成分を質量分析で解析したところ、有意な増加を示した低分子アミンとしてヒスタミンを同定した。ヒスタミンはアレルギーや炎症反応に関与することで知られているが、心腎連関での役割は未解明だ。そこで、ANSマウスへのヒスタミン受容体の阻害剤投与や、遺伝的にヒスタミンを合成できないノックアウトマウスを利用してANS モデルを作出したところ、心腎病態が悪化することがわかった。一方で、主に神経細胞で発現しているヒスタミンH3受容体のアゴニストImmの投与で心臓と腎臓の病態が改善したことから、Imm がANSマウスの心臓と腎臓の機能障害に保護的に作用することを見出した。
さらに、次世代シークエンサーを用いた腎臓の網羅的遺伝子発現解析から、ANSマウスで炎症関連遺伝子群の発現亢進を認め、実際にANSマウスの血液中で炎症マーカータンパク質が増加していた。それらはImmで抑制されたことから、ImmはANSマウスに対して抗炎症作用を発揮することが明らかになった。この結果は、心腎連関仲介因子としてのヒスタミンの役割や、Immの抗炎症作用による心腎病態改善の可能性を示している。
心腎病態の悪化は、虚血性心疾患や脳梗塞、腎不全などの疾患リスクを高めるが、心腎連関の詳細な発症・制御機構の解明は途上である。「今後、本研究のアプローチにより、炎症性臓器障害を示す他のモデル動物へのImm 改善効果の検証、抗炎症作用をもつ薬剤の心腎連関モデル動物への応用など、心腎連関の発症メカニズムの理解や、それに基づく薬剤の開発につながる波及効果が期待される」と、研究グループは述べている。
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