睡眠の意義を知るにはリップル波とP波の統合的な理解が必要
東北大学は1月24日、レム睡眠とノンレム睡眠で、マウス脳内の海馬-脳幹間神経活動パターンが逆転することを明らかにしたと発表した。これは、同大大学院生命科学研究科(兼同大学際科学フロンティア研究所)の常松友美助教が、英国ストラスクライド大学の坂田秀三上級講師らと共同で行ったもの。研究成果は「eLife」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
レム睡眠とノンレム睡眠には、それぞれ特徴的な脳波がある。レム睡眠では脳幹で発生するP波、ノンレム睡眠では海馬で発生するリップル波が挙げられ、どちらの脳波も記憶の固定に重要と考えられている。これまでリップル波と記憶、あるいはP波と記憶の研究が独立して行われており、リップル波とP波の関係性に言及した研究は行われていなかった。しかし、睡眠の意義に迫るためには、それらを統合的に理解する必要がある。
一方、ネコやラットを用いたP波の研究は1960年代から開始されたが、遺伝子操作が可能なマウスにはP波が存在しないと考えられており、研究が進んでいなかった。
マウスの脳にもP波が存在すること、レム睡眠時にはP波が起こった後に海馬神経活動が高まることを発見
研究グループは、マウスのP波の証明に挑戦。その結果、世界で初めてマウスでのP波の計測に成功した。さらに、P波がレム睡眠だけでなく、ノンレム睡眠でも発生していることも明らかにした。P波は夢を作り出しているとも考えられており、同成果は今後、記憶研究のみならず、夢を見るメカニズムの解明にも繋がる可能性があるという。
さらに、脳幹P波と海馬神経活動、およびリップル波を同時に記録した。詳細に解析したところ、ノンレム睡眠時は、海馬神経活動や海馬リップル波が起こった後にP波が観察される一方、レム睡眠時には、P波が起こった後に海馬神経活動が高まることが明らかとなった。この結果は、異なる睡眠状態では、脳幹と海馬の脳領域間での情報伝達方向が逆転することを世界で初めて示したもの。
これまで、レム睡眠もノンレム睡眠も、記憶の固定に重要であると考えられていたが、その生理機能が同じなのか、異なっているのか議論が分かれていた。しかし、同研究は生理的役割が異なっていることを示唆しており、今後の睡眠機能の解明に貢献することが期待される。
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