従来のゲノム編集遺伝子治療法は、効率が悪く実用化に進めなかった
東北大学は1月27日、新しい遺伝子治療の方法を開発し、全盲の網膜変性マウスにおいて正常の6割程度の視力回復を実現したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の視覚先端医療学の西口康二准教授、眼科学分野の中澤徹教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
国の指定難病である網膜色素変性は、有効な治療法がない遺伝性疾患で、国内の失明原因の第2位の疾患。近年、重症型の網膜色素変性の治療として、アデノ随伴ウイルス(AAV)を使って正常な遺伝子全体を病気の細胞に補充する遺伝子治療(遺伝子補充療法)が有効であると示された。しかし、一度に導入できる遺伝子の大きさには制約があるため、一部の網膜色素変性患者に対してのみ効果がある治療法だった。
一方、ゲノム編集を用いた遺伝子治療(ゲノム編集遺伝子治療)では、病気の原因となる変異部分だけを「正常化」することができ、多くの網膜色素変性患者を治療できる可能性がある。しかし、従来のゲノム編集遺伝子治療は、病気の細胞に対して、複数のウイルスを用いて異なる遺伝子を同時に導入する必要があるため、遺伝子改変の効率が悪く、実用化の目途は立っていなかった。
従来よりも高効率でゲノム編集を実現、全盲マウスの視力回復に成功
今回、研究グループは、これまで複数のAAVで行われていたゲノム編集を、1つのAAVで行うことができる革新的な遺伝子治療技術を確立した。この遺伝子治療技術をゲノム編集が難しいとされる神経疾患のモデルマウスに適用した結果、ゲノム編集効率の大幅な改善と、高い治療効果を実現。この新規の遺伝子治療技術では、ゲノム編集に必要な構成要素の小型化を行うことで、これまでの2つのAAVに分けていたゲノム編集に必要な構成要素を1つのAAVにまとめることができた。
特に、正常配列を挿入するゲノム修復機構にマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)を利用したことで、正常配列を含む最小限のDNAで正確にゲノムを修復することができた。このAAVを成体の全盲網膜変性のマウスに投与したところ、病因変異の約10%が正常化され、光感度が1万倍改善し、視力が正常の約6割にまで回復した。さらに、従来の遺伝子補充療法と同等の治療効果を示したことから、新規治療法の実用性も実証された。研究グループは、今回の成果について、「これまで治療の対象にならなかった網膜色素変性だけでなく、多くの遺伝病性疾患に対する遺伝子治療の開発への道を開くものだ」と、述べている。
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