人工タンパク質「シルクエラスチン」が細菌感染を助長せず、創傷治癒を促進
大阪大学は1月22日、慢性創傷を治療する目的で、新規治療材料「シルクエラスチンスポンジ」を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科形成外科学講座 野田和男助教らが、三洋化成工業株式会社と共同で行ったもの。
画像はリリースより
近年、糖尿病患者の増加あるいは高齢化に伴い、糖尿病性皮膚潰瘍等に代表される慢性創傷の増加が問題となっている。慢性創傷を治癒させるためには、湿潤を保ちつつ、細菌感染を起こさないように毎日傷を洗浄し、傷を治すための軟膏を使用したり、被覆材を貼り替えたりする必要がある。数日間交換しなければ、細菌が増えて感染が起こり、治癒が遅れるという悪循環に至る。
シルクエラスチンは、シルクフィブロインの部分配列とエラスチンの部分配列とを組み合わせ、遺伝子組み換え技術により作製された人工タンパク質。シルクエラスチン水溶液は、37度に温めるとタンパク質の構造が変化し、水分を含んだ状態でゲル化するという特徴がある。この特徴を利用して創傷治癒材の開発を行ったところ、動物実験において、シルクエラスチンゲルが細菌感染を助長せず、創傷治癒を促進することを発見したという。
安全性も確認済み、医療機器としての承認を目指す
研究グループが行った動物実験では、感染しやすい傷に対してシルクエラスチン水溶液を創傷治癒材として使用。その結果、感染を助長せず、創傷の治癒を促進する効果が見られた。そこで、実際の難治性皮膚潰瘍に対して臨床使用することを計画。臨床の現場で使いやすいよう、シルクエラスチンをスポンジ形状に加工したシルクエラスチンスポンジを作製した。シルクエラスチンスポンジを皮膚の傷に貼付すると、傷から出る体液によりシルクエラスチンスポンジが溶解。この溶解したシルクエラスチン溶液が傷の表面でゲル化し、創傷の治癒を促進する効果があることを確認した。
さらに、シルクエラスチンスポンジの安全性を確認するための医師主導治験を2018年2~12月まで、6例に対して行った。その結果、重篤な重症度の高い有害事象は起こらず、治験機器の不具合も認められず、安全性が確認されたという。この結果を受け、有効性を検証する企業治験を行う方針が決定された。
今回の医師主導治験は、シルクエラスチンスポンジの安全性確認、課題の抽出、有効性の評価指標の確立を目的としたもので、いずれも達成した。研究グループは、「ヒトに対する初の使用経験となった本治験のデータをもとに、今後の企業治験を計画し、さらなる知見を深める予定。2020年度中に企業治験を開始し、将来的には医療機器としての承認を目指している」と、述べている。
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・京都大学 研究成果