インスリンは線維化しやすい繊細な薬なので安定化が望まれている
大阪大学は1月21日、インスリンに糖鎖が結合した新しい分子である、「グリコインスリン」の化学合成に成功したと発表した。この研究は、同大大学院理学研究科化学専攻有機生物化学研究室の岡本亮講師、梶原康宏教授らの研究グループが、メルボルン大学Florey Institute of Neuroscience and Mental Health の Associate professorであるAkhter Hossain(アクター ホサイン)氏らの研究グループとの共同研究で行ったもの。研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン公開されている。
画像はリリースより
糖尿病を患う多くの人々に必要不可欠な薬である「インスリン」は、繊維化という現象によってそのかたちが壊れやすい、繊細なタンパク質分子だ。この繊維化がおこると、インスリンは薬効を失う。そのため、繊維化したインスリンは廃棄し、新しいインスリン溶液を利用しなければならない。インスリンの保存期間(使用可能期間)がわずか2日間から6日間に増加した場合、米国では年間10億米ドル以上節約できるという試算もなされている。繊細なインスリンを、適切にインスリンポンプによって投与するために、頻繁にインスリンを含むポンプを交換する必要もあり、インスリンを使用することは、使用される人々の経済的な負担だけでなく、クオリティ・オブ・ライフの低下にも大きく関わる。このため、より安定なインスリン分子の開発がいまだに続けられている。
糖鎖の付加で、インスリン機能を低下させる線維化が起こらず極めて安定に
今回、研究グループは、糖鎖がインスリンに結合した新しい分子である、「グリコインスリン」の合成に成功した。糖鎖は我々の体の中で、タンパク質と結合した糖タンパク質として大量に存在し、免疫などの様々な生命現象に関わる重要な分子。梶原教授の研究グループは、これまでに、高純度の糖鎖の大量調製法を開発しており、この技術を利用することで、いろいろな構造の糖タンパク質の合成が可能であることをすでに見出していた。
Associate Professor Hossain、Professor Wadeらのグループは、独自の化学技術で合成したインスリンに対して、岡本講師が誘導化したシアル酸という糖を含む特定の構造の糖鎖を導入し、グリコインスリンを新しく合成。解析の結果、このグリコインスリンは、高温のような過酷な条件下でも繊維化せず、極めて安定であることが判明した。この結果は、糖鎖がタンパク質の繊維化を防ぐ機能をもつことを示唆している。また、マウスを利用したインスリン負荷試験から、グリコインスリンは通常のインスリンとほぼ同等の機能をもっていることも明らかになった。研究グループは、「今後、糖鎖が繊維化を防ぐメカニズムなどの詳細を明らかにできれば、グリコインスリンは、非常に安定な新しいインスリン分子として、将来の臨床使用への有望な候補になることが期待される」と、述べている。
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