17歳以下の院外心停止患者に対するアドレナリン投与の効果を明らかに
大阪大学は1月15日、小児の院外心停止患者に対する救急隊によるアドレナリン投与の効果を、新しい解析手法である「時間依存傾向スコア連続マッチング解析法」を用いて評価した結果、救急隊到着時の1次救命処置で自己心拍が再開しなかった心停止患者のうち、アドレナリン投与を行うことが心停止後の自己心拍再開の改善に関連することを示したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科の小向翔助教(医学統計学)、北村哲久助教(環境医学)と京都府立医科大学大学院医学研究科の松山匡助教(救急・災害医療システム学)らの研究グループによるもの。研究成果は、米国心臓病学会雑誌「Journal of the American College Cardiology」のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
病院外で心停止を起こした患者に対して、救急隊は胸骨圧迫などの心肺蘇生行為やAED(体外式自動除細動器)を用いた電気ショックといった1次救命処置だけでなく、自己心拍再開が達成できない心停止患者に対しては、静脈路からのアドレナリン投与や声門上気道確保器具や気管挿管チューブを用いた高度気道確保といった2次救命処置を行う。日本では、8歳以上の院外心停止患者に対してアドレナリン投与を実施することが法的に許可されているが、院外心停止患者に対するアドレナリン投与は、救急隊によって行われる重要な蘇生行為であるにもかかわらず、17歳以下の小児の院外心停止患者の効果については十分に評価されていなかった。
研究グループは、アドレナリン投与が行われた時刻に着目。日本の救急隊によるアドレナリン投与は、1次救命処置によって自己心拍が再開した心停止患者に対しては行われていない。つまり、自己心拍が再開せず、蘇生行為が長くなればなるほどアドレナリン投与を受けやすくなるため、自己心拍が再開しない予後不良群の方がアドレナリン投与を受けやすくなるという「蘇生時間バイアス」という問題が生じる。そこで研究グループは、この蘇生時間バイアスを克服するために、傾向スコアマッチング解析を応用し、アドレナリン投与された時間ごと(1分ごと)に傾向スコアを算出し、同じタイミングでアドレナリン投与された群と、まだされていない群をマッチさせることで、蘇生時間バイアスを減らす手法(時間依存傾向スコア連続マッチング解析)を新たに導入した。
アドレナリン投与群は非投与群に比べ、院外心停止後の自己心拍再開率が有意に高く
今回の研究は、総務省消防庁の全国院外心停止患者登録データを用いて実施された。2007~2016年の10年間で、解析対象となる日本の8~17歳の小児の院外心停止患者は3,961人で、そのうち7.7%(306/3961人)がアドレナリン投与を受けていた。
解析の結果、アドレナリン投与を受けた群の方が、受けなかった群に比べ、院外心停止後の自己心拍再開率は有意に高いことが判明。一方、院外心停止発生1か月後の生存率や社会復帰率もアドレナリン投与を受けた群の方が受けなかった群に比べて高い傾向にあったが、統計学的に有意な差はなかった。
今回の研究成果は、救急隊による病院前救護活動のひとつであるアドレナリン投与の有効性を示す本研究結果は、小児の院外心停止患者に対する救急隊による2次救命処置の重要性を明らかにするとともに、院外心停止患者の蘇生率向上のためのエビデンスとして、国際心肺蘇生ガイドラインの改定にも大きな影響を与えると考えられる。
研究グループは、「本研究は、国際心肺蘇生ガイドラインに影響を及ぼすものとして重要であるとともに、観察研究における治療や薬剤の有効性を評価する場合において、それらの時間を考慮することの重要性も示す結果として意義のある研究と考える。また、日本におけるアドレナリン投与された小児の院外心停止患者の割合は低いため、今後アドレナリン投与された小児の院外心停止患者の割合が増えれば、自己心拍再開そして社会復帰する小児の院外心停止患者がさらに増えることが期待される」と、述べている。
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