中枢神経系でのみ機能が明らかにされていた「セリンラセマーゼ」
大阪大学は1月20日、中枢神経系でのみ機能が明らかにされていた代謝酵素「セリンラセマーゼ」が、大腸がんにおいてL-セリンからピルビン酸を産生する新たながん代謝経路を担い、がん細胞の増殖を促進することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の大島健司助教、森井英一教授(病態病理学)らの研究グループによるもの。研究成果は、英国科学誌「Nature Metabolism」に掲載されている。
近年、がん細胞が代謝を改変することで、自身の生存、増殖、転移などに有利な形質を獲得することが明らかにされている。これまで、L-セリンを含むアミノ酸あるいは解糖系の産物であるピルビン酸が、がん細胞の増殖において重要な役割を果たすことが報告されてきた。しかし、L-セリンからピルビン酸が産生される代謝経路が、がん細胞で機能しているかどうかは明らかになっていなかった。
そこで、研究グループは今回、中枢神経系でのみ機能が明らかにされてきた、L-セリンからピルビン酸を産生する酵素活性を有する代謝酵素であるセリンラセマーゼに着目。大腸がんにおける機能を解析した。
画像はリリースより
L-セリンがピルビン酸を産生する代謝経路、がん細胞増殖を促進
研究グループは、代謝酵素セリンラセマーゼの発現量が大腸がん、大腸腺腫組織で増加していることを確認。ゲノム編集技術などを用いて、大腸がんにおけるセリンラセマーゼの機能解析を行った。その結果、セリンラセマーゼが大腸がん細胞においてL-セリンからピルビン酸を産生し、ヒストンのアセチル化やミトコンドリアの量・質の維持あるいは抗アポトーシス作用など、さまざまな細胞機能に影響を与え、大腸がん細胞の増殖を促進していることが判明。また、セリンラセマーゼ阻害剤の投与で、大腸がん細胞の増殖が抑制された。これらの研究結果から、L-セリンからピルビン酸が産生される新規の代謝経路が、大腸がん細胞の増殖を促進し、治療標的になり得ることが示されたとしている。
今回、大腸がん細胞の増殖を促進するL-セリンからピルビン酸が産生される新たな代謝経路が解明されたことで、その代謝経路を標的とした新たな治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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