国内20代結核患者の7割が外国人、現地で調査実施
日本医療研究開発機構(AMED)は1月16日、大量並列シークエンス法を用いて、ベトナムにおける初回耐性結核菌の広がりを詳細に明らかにするとともに、ゲノムワイド関連解析により、イソニアジド耐性(katG-S315T)菌の伝播に関係する5つの遺伝子を同定したと発表した。これは、結核予防会結核研究所の慶長直人副所長、同生体防御部の土方美奈子部長、北海道科学大学薬学部薬学科基礎薬学部門生命科学分野の前田伸司教授、国立国際医療研究センター・バックマイ病院医学共同研究センターのNguyen Thi Le Hang博士、ハノイ市肺病院のPham Huu Thuong院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」および「Infection, Genetics and Evolution」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、日本における外国出生者の増加に伴い、アジアから持ち込まれる結核が急増している。特に、北京型結核菌群は、ヒトへの伝播能が高く、薬剤耐性を獲得しやすく、治療後の再発が多いことが報告され、公衆衛生上、大きな問題になっている。また、20歳代の結核の71%は、外国生まれの患者。中でも、ベトナムからの患者数は急増し、国別でフィリピンに続いて2位である(結核予防会結核研究所疫学情報センター2018年集計)。ベトナム結核の特性を知るには、現地でのコホート研究が重要という考えから、のべ1,000人以上の患者の研究参加による結核コホート研究が行われ、これまでに、ベトナム・ハノイ市の結核患者は、未治療でも4人に1人が代表的抗結核薬であるイソニアジドに対して耐性を示すことがわかっている。
多剤耐性菌の伝播防止の標的となりうる遺伝子同定、過去のまん延状況との比較も可能に
今回研究グループは、大量並列シークエンス法を用いて、ベトナム・ハノイ市における初回耐性結核菌の広がりを詳細に明らかにした。さらに、ゲノムワイド関連解析の手法により、一次抗結核薬である「イソニアジド」に対する主要耐性変異(katG-S315T)の伝播力と密接に関係する病原体因子を網羅的に探索。その結果、再現性があった5つの遺伝子「PPE18/19」「gid」「emrB」「Rv1588c」「pncA」は、今後、多剤耐性菌の伝播防止の標的となりうることがわかった。特に、PPE18は新規結核ワクチンに使用される候補分子になりうるという。
続いて、共同研究者とオープンソースのコンピュータ解析ツールを開発。結核菌の遺伝型別、遺伝系統および株の同一性に関して蓄積した古典的解析データと、今回得られた全ゲノム解析データを用いた双方向的な検討を行った。その結果、ハノイ市に広がる第1、第2、第4系統の結核菌の特徴、特に第2系統である北京型株のまん延状況が新旧両法で明らかになった。これによると、ハノイ市では、第2系統(lineage2, L2)の結核菌が半数以上を占めており、治療を始める前からイソニアジド、リファンピシンの両薬剤に対して耐性(MDR_1)を獲得している菌が散見された。
研究グループでは今後、線形混合モデルや収れん進化の特性を利用したゲノムワイド関連解析に、in vitroモデル、動物モデルを併用して、結核の特性となる表現型と宿主の個体差、病原体因子との関連を明らかにしていく考え。「ベトナム結核コホート研究を継続することにより、治療法の変遷に伴う再発、再感染率の推移、まん延する菌系統、薬剤耐性率の経年変化を明らかにしつつある。現場で、臨床疫学的に抽出される問題点を、これらの手法を用いて解決し、国内外の結核対策に寄与することを目指したい」としている。
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