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胃切除術による腸内環境の変化を発見、大腸がんと関連する細菌などが増加-東工大ほか

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2020年01月21日 AM11:30

胃切除術と消化管の再建が与える腸内環境への影響について検討

東京工業大学は1月17日、胃切除術を受けた患者は、健常者と比較して腸内環境に大きな違いがあり、大腸がんと関連する細菌や代謝物質が増加していることを明らかにしたと発表した。これは、同大生命理工学院 生命理工学系の山田拓司准教授と大阪大学大学院 医学系研究科の谷内田真一教授(ゲノム生物学講座・がんゲノム情報学、前国立がん研究センター研究所・ユニット長)、慶應義塾大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授、・中央病院 内視鏡科の斎藤豊科長らの研究グループによるもの。研究成果は、英国学会誌「Gut」に掲載されている。


画像はリリースより

ヒト1人の細胞数が約37兆個であるのに対し、ヒト1人あたりの腸内細菌数はおよそ40兆個、重さにして約1~1.5 kgとされている。これらの腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患など、さまざまな疾患と関係することが最近になってわかってきた。また、腸内細菌が胃切除を含むさまざまな治療と関連する可能性があることも報告されている。

胃切除は、胃がんや重篤な肥満の治療法であり、欧米における肥満の治療のための胃切除手術の場合、術後の体重減少が腸内細菌叢の変化と関連することが報告されている。しかし、胃がんの治療のための胃切除による腸内環境への影響は、これまでほとんど明らかにされていなかった。胃切除術後には、低栄養や貧血、ダンピング症候群などの併発症がある。また、胃がんの患者は腸内細菌との関連が指摘されている「異時性大腸がん」を術後に発症するリスクが高いことが知られている。そのため、胃切除術を受けた患者における腸内環境を探索することは重要と考えられている。

研究グループは、国立がん研究センター・中央病院 内視鏡科を受診し、大腸内視鏡検査を受けた106人の受検者(胃切除した患者50人と健常者56人)を対象に、食事などの「生活習慣などに関するアンケート」調査、凍結便、大腸内視鏡検査所見などの臨床情報を収集した。この凍結便に対し、東京工業大学や慶應義塾大学先端生命科学研究所と共同で、メタゲノム解析とメタボローム解析を行った。その上で、胃切除した患者50人と健常者56人の腸内細菌叢を比較し、胃切除後の患者に特徴的な細菌や代謝物質を探索した。その結果、胃がんの治療のための胃切除術と、それに伴う消化管の再建が、患者の腸内環境に大きな影響を与えることが明らかになった。これを踏まえ、胃切除後の生理学的な変化が腸内細菌叢や代謝物質にどのような変化をもたらし、それが術後の病態にどのように影響するのか、それぞれの変化の関連性について検討した。

胃切除後の定期的な全身フォローアップの重要性が明らかに

今回の研究で行った解析では、胃切除後の患者は健常者と比較して、腸内細菌の種の豊富さと種の多様性の高さが確認された。これらの違いは、胃切除による腸内環境の変化を反映している可能性がある。その変化の1つとして、胃切除後の患者では、口腔内でよく検出される細菌の相対的な量が多いことが確認された。

胃切除術は、栄養障害、貧血、下痢、ダンピング症候群などを引き起こすなど、術後の患者の代謝に影響を及ぼすことも広く知られている。同研究の解析でも、術後の患者の代謝の変化に関連する、腸内細菌の代謝機能の変化が見られた。例えば、胃切除後の患者では、小腸でのビタミンB12の吸収不足が知られているが、今回の解析でも、ビタミンB12が小腸で吸収されずに大腸まで残り、それを細菌が利用するべく、ビタミンB12の摂取能力を持つ細菌が増加することが観察された。

一方、胃がんの患者は異時性大腸がんを発症するリスクが高いことも報告されている。胃切除後の発がんメカニズムは、散発性大腸がん(通常の大腸がん)とは異なる可能性があるが、同研究では、散発性大腸がんに関連することが知られている細菌の種類や代謝物質が胃切除後に多いことが観察された。研究チームは先の研究で、大腸がんの発生の初期にのみ増加する細菌を同定している。今回の解析でも、その1つであるAtopobium parvulumや、発がんの初期から関連することが知られているFusobacterium nucleatumが、胃切除後の患者で増加していることが認められた。特に、胃全摘術を受けた患者でFusobacterium nucleatumの量が多いことも確認された。さらに、肝臓がんおよび散発性大腸がんにおいて、発がん性が知られているデオキシコール酸も、胃切除後の患者の便中に多く含まれていた。これらの結果は、胃切除後の患者に対する定期的な全身のフォローアップの重要性を示している。

術後の腸内環境を改善する医薬品や健康食品開発に期待

今回の研究成果は、胃切除だけではなく、他の疾患の治療後の長期的な併発症にも応用可能なフレームワークの可能性を示している。また、胃切除後の患者に対して定期的に大腸内視鏡検査を行い、異時性大腸がんの発生を早期に発見する必要がある可能性を示唆している。

研究グループは、「今回の知見は、便検体を用いた腸内環境の観点から、胃切除後の低栄養や貧血などの病態を理解し、今後、その病態を非侵襲的に評価する手法として応用される可能性や、術後の栄養状態の改善などに腸内細菌の観点から介入し、それらを改善する医薬品や健康食品などを生み出す可能性がある」と、述べている。

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