心の問題に適切に対応するための応急処置の技術をロールプレイなどで学ぶ「MHFA」
九州大学は1月9日、心の応急処置を習得するメンタルヘルス・ファーストエイド(MHFA)、および、認知行動療法に基づくコミュニティ強化と家族訓練(CRAFT)を応用した家族向けの5日間の教育支援プログラムを開発したと発表した。これは、同大病院精神科神経科の加藤隆弘講師、神庭重信名誉教授(精神医学)、福岡市精神保健福祉センターの本田洋子所長、宮崎大学の境泉洋准教授、岩手医科大学の大塚耕太郎教授、愛育相談所の齊藤万比古所長を中心とする共同研究グループによるもの。研究成果はオープンアクセスの国際科学雑誌「Heliyon」に掲載されている。
画像はリリースより
「社会的ひきこもり(以下、ひきこもり)」は、6か月以上に渡り就労・学業など社会参加を回避し自宅に留まっている現象であり、うつ病など精神疾患の併存も珍しくない。精神疾患やひきこもりに対する偏見や誤解のために、本人ばかりでなく、家族も相談機関や精神科などの医療機関への来所・受診をためらい、見て見ぬふりをしてしまうことが少なくない。その結果、ひきこもり支援の開始が大幅に遅れ、8050問題など長期化・高齢化が社会問題となっている。
MHFAは、オーストラリアで市民向けに開発された教育プログラムで、身近な人の心の問題(抑うつ・不安・アルコール依存・精神病など)に早期に適切に対応するための応急処置の技術をロールプレイなどの実習を通じて体験的に学ぶことができる。今回研究グループが開発したプログラムは、このMHFAやCRAFTを応用したもの。受講により、ひきこもりや精神疾患への理解が深まり、ひきこもり者本人による来所・受診がスムーズに進むための声かけなど具体的な対話スキルを習得できるように、講義だけでなくロールプレイを盛り込み、実践力の向上を目指した。
将来的には医療・福祉・職域など、広い領域での活用目指す
パイロット試験には21名の親が参加し、隔週5回(1回2時間)のセッションを受講。6か月間に渡って追跡調査を行った。その結果、うつ状態にあるひきこもり架空症例への対応スキル、精神疾患への偏見などが改善し、さらに、ひきこもり者本人による社会参加が改善するなど、社会適応的な行動の変容が親からの報告により認められた。今後プログラムの改良を重ね、同プログラムを基にした家族向けの教育支援が全国のひきこもり支援機関で活用されることで、ひきこもり者本人による直接の来所・受診が早まり、ひきこもりの長期化解消の一助となることが期待される。
研究グループは、「将来的には、より多くの家族が受講しやすいように、より短時間のプログラムやオンラインによる受講システムの構築も目指している。オーストラリアや英国ではMHFAが広く国民に普及しており、私たちは、ひきこもり支援に限らず、医療・福祉・職域など、さまざまな領域でMHFAの活用を推進している。日本でもMHFAが広く国民に普及することで、精神疾患の初期支援がスムーズになり、ひきこもり予防にも貢献することが大きく期待される」と、述べている。
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・九州大学 研究成果