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若年性膵炎の原因として、新たにCa2+チャネルTRPV6遺伝子変異を発見-東北大ほか

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2020年01月15日 AM11:15

日本の患者数約6万7,000人の慢性膵炎、2割は原因不明

東北大学は1月14日、若年性膵炎の原因として、カルシウムを選択的に透過する膜タンパク質であるカルシウムチャネルTRPV6遺伝子の変異を世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科消化器病態学分野の正宗淳教授と京都大学、ドイツミュンヘン工科大学、フランスの西ブルターニュ大学らの研究グループによるもの。研究成果は、米国消化器病学会の機関誌「Gastroenterology」電子版に掲載された。

慢性膵炎は、膵臓に持続的な炎症が起こり、組織が破壊されることで硬くなる疾患。典型的な例では、腹痛の発作を繰り返し、進行すると膵消化酵素やインスリン産生が障害され、消化吸収障害や糖尿病を発症する。日本国内の患者数は約6万7,000人と推定される。慢性膵炎の原因として最も多いのはアルコールによるものだが、2割の症例は原因不明だ。若年性膵炎発症例の多くは遺伝子異常が背景にあると考えられており、遺伝性膵炎は厚生労働省の難病や小児慢性特定疾病に指定されている。

遺伝子異常により、膵臓の消化酵素トリプシンの活性化が亢進する、トリプシン活性の暴走を防ぐ安全機構がうまく働かなくなるといった結果、膵炎が生じることが知られている。しかし、特発性慢性膵炎患者の4分の3、家族歴の濃厚な遺伝性膵炎においても4分の1の家系では原因遺伝子異常が不明であり、未知の原因遺伝子が存在すると想定されていた。


画像はリリースより

20歳以下の若年発症124例を含む300例の非アルコール性慢性膵炎を解析

まず、研究グループは、若年性膵炎患者について全エクソームの網羅的解析を行い、TRPV6遺伝子のde novo突然変異を同定した。TRPV6は、細胞内にカルシウムを透過させる穴(チャネル)をもつ膜タンパク質であり、生体におけるカルシウムの恒常性を維持するために重要だ。正常なTRPV6を培養細胞で発現させ、カルシウムを含む溶液で処理すると、細胞内カルシウムの濃度は速やかに上昇したが、遺伝子変異によりTRPV6機能が失われた場合には、この細胞内カルシウム濃度上昇が見られなかった。

続いて、20歳以下の若年発症124例を含む300例の非アルコール性慢性膵炎を解析。その結果、TRPV6の機能が失われる遺伝子変異が13例(4.3%)あり、そのうち20歳以下の若年で発症した膵炎患者では124例中12例(9.7%)に認められた。日本人では1,070例中1例(0.1%)だった。フランス人およびドイツ人の若年発症膵炎についても解析を行い、TRPV6の機能喪失型変異が、フランス人膵炎では470例中9例(1.9%)、ドイツ人の膵炎では410例中9例(2.2%)に認められ、フランス人健常者570例、ドイツ人健常者750人では1例も認めなかった。

TRPV6遺伝子が膵炎に対する防御機構として機能することを示唆

最後に、TRPV6遺伝子の機能が働かなくなった変異マウスに慢性膵炎を起こしたところ、通常のマウスに比べて膵炎が悪化することを見出したという。これらの知見は、TRPV6遺伝子が膵炎に対する防御機構として働いており、遺伝子変異によりその機能が障害されると膵炎が起こることをヒトおよびマウスで示すものだとしている。

今回の研究成果により、膵炎の新しい原因遺伝子としてカルシウムチャネルTRPV6遺伝子異常が同定され、遺伝子異常によるTRPV6機能喪失の結果として膵炎発症に至るという、新しい膵炎発症のメカニズムが初めて明らかとなった。病態解明のみならず、新たな膵炎の治療標的開発につながる大きな成果と考えられる、と研究グループは述べている。

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