CMV感染児の早期治療開始のため、ハイリスク妊婦スクリーニング法を模索
神戸大学は1月14日、妊婦の発熱などのかぜ症状と切迫流・早産となったことが、赤ちゃんの先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染の発生に関係していることを世界で初めて明らかにしたと発表した。これは同大医学研究科産科婦人科学分野の山田秀人教授、日本大学医学部小児科学系小児科学分野の森岡一朗教授、および、愛泉会日南病院疾病制御研究所の峰松俊夫所長らの研究グループによるもの。研究成果は、米国の科学雑誌「Clinical Infectious Diseases」に掲載されている。
CMVは、胎児に感染を起こし、乳幼児に難聴、精神や運動の発達障害などの重い後遺症を残す原因となるとして注目されている。日本でも年間1,000人の先天性感染症児が生まれていると推定されているが、有効なワクチンや胎児・新生児に対する治療法がないため、全妊婦を対象とする血液検査などによる先天性CMV感染のスクリーニングは推奨されていない。しかし、最近になって先天性CMV感染による症状を持って生まれた新生児(症候性感染症児)に対して早期に抗ウイルス薬で治療を行うことで、難聴や精神発達の遅れが改善できることがわかってきた。これにより、出産時に先天性感染児を正確に見つけ出すことの重要性が再認識されるようになっている。
血清学的検査ではなく、妊婦の臨床状態から予測が可能かを調査
これまで、CMVに対する抗体を持たない妊婦が、妊娠中に初めてCMVに感染した場合に発生すると考えられてきた。そのため、妊娠中の母体初感染を診断する検査である抗CMV免疫グロブリン(Ig)M抗体、IgG抗体検査やCMV IgGアビディティー検査などがハイリスク妊娠を選び出す目的で用いられている。しかし、先天性CMV感染児は妊娠中の初感染よりも妊娠前に感染を起こした慢性感染状態の妊婦から多く発生し、しかも、重症度も変わらないことを相次いで世界中の研究者が多数報告している。このことから、従来の血清学的検査によるスクリーニングは役に立たない危険性がある。
先天性感染児をもれなく見つけ出すためには、全ての新生児を対象とした尿のPCR検査実施が理想だが、実施している国はない。そこで研究グループは、一般的な産科施設で分娩した妊婦を対象として、血液検査を用いずに、先天性CMV感染児の発生を予測するために有用な妊娠中の妊婦の臨床症状などがあるか否かを調べることとした。
妊娠14~27週までに切迫流・早産の症状を認めた妊婦で先天性CMV感染の割合高
ローリスク妊婦の分娩を行う同大の関連産科施設で、2009年3月~2017年11月の間に妊婦健診を受け、分娩した4,125人を解析。この期間に生まれた全新生児に対して尿のCMV PCR検査を行ったところ、9人(0.2%)に先天性CMV感染が発生し、うち1人に聴力異常が確認された。今回の研究で妊婦に関して検討したのは、妊娠中の発熱・感冒様症状(咳・のど痛・鼻水などかぜの症状)の有無、妊娠中の合併症の有無などの11項目だった。
先天性感染が発生した群と発生しなかった群で比較した結果、先天性感染が発生した妊婦では、発生しなかった妊婦と比べて、妊娠中に発熱・感冒様症状を認めた妊婦の割合が高く、また、妊娠第2三半期(妊娠14~27週まで)に切迫流・早産の症状を認めた妊婦の割合が高いことがわかった。さらに、多変量解析を用いることで、妊娠中の発熱・感冒様症状と妊娠第2三半期の切迫流・早産の症状は、統計学的にも赤ちゃんの先天性感染発生に関連していることが証明された。
また、先天性感染の発生予測における妊娠中に発熱・感冒様症状を認めた場合の感度は78%、特異度は85%で、妊娠第2三半期に切迫流・早産の症状を認めた場合の感度は78%、特異度は61%であった。妊娠中に発熱・感冒様症状、もしくは、妊娠第2三半期に切迫流・早産のいずれかの症状を認めた場合の感度は100%、特異度は53%だった。これらのことから、一般的なローリスク妊婦で、妊娠中に発熱・感冒様症状、もしくは、切迫流・早産の症状を認めた場合には、その新生児に対して、尿を用いたCMVのPCR検査を考慮した方がよいと考えられる。
「今後、妊娠中にこれらの症状を認めた妊婦から出生した赤ちゃんに対し、尿を用いたCMVのPCR検査を行うことで罹患児を早期に発見・治療することが可能になり、本疾患に苦しむ子どもたちを減らせることが期待される」と、研究グループは述べている。
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