ALDH2変異型を持つAD患者で「フリーラジカル」が多く観察される
米スタンフォード大は12月11日、アルコール分解酵素「2型アルデヒド脱水素酵素」(以下、ALDH2)の変異とアルツハイマー型認知症(以下、AD)に潜在的な関連があることを証明したと発表した。この研究は同大のAmit Joshi博士、Daria Mochly-Rosen教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Acta Neuropathological Communications」に掲載されている。
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ADは、2018年に全世界で5,000万人以上が発症。2050年までに1億5,000万人を超えると予測されている。また、ALDH2変異型の人で飲酒後にアルコール分解能力が弱いことによって起こる顔面紅潮は、世界全体の約8%にあたる5億6,000万人で起こるとされており、東アジア地域の住人に多くみられる。過去の東アジア地域の疫学調査から、ALDH2変異型とADの関連性が指摘されていた一方で、関連がないという研究報告もあった。
そこで研究グループは、AD患者20人から採取した細胞を培養して、ALDH2変異との関連性を調べた。結果、1人の細胞からALDH2*2として知られるALDH2変異型が見つかった。この細胞を調べたところ、正常ALDH2と比較して、同程度の量のALDH2*2が作られていたが、有害物質のアセトアルデヒドを分解できる能力は低かった。
また、ALDH2*2細胞では、フリーラジカルや4-HNEといった、本来はALDH2によって除去される有害物質が正常細胞よりも多いこともわかった。フリーラジカルは発熱時や慢性疾患、ストレスを抱えているときなどに発生するとされ、有毒なアルデヒドを形成することも知られている。アルデヒドが蓄積されると、ミトコンドリア機能が劣り、やがて神経細胞の死を招き、ADの発症に至ると考えられるという。
さらに、これらのAD患者由来の細胞にアルコールを添加したところ、ALDH2およびALDH2*2のどちらでもフリーラジカルが増加したが、ALDH2*2の方がより多く増加することも確認された。一連の解析結果から、ALDH2*2ではアルコールによって、通常ALDH2の働きによって保護される細胞が損傷され、この損傷の度合いは、ADリスクの高い遺伝型であるApoE ε4アレルをもつAD患者の場合に、より高くなることが示唆された。
マウス実験でもALDH2*2変異型ではADを示唆する病態を確認
続いて、マウスを用いてアルコールとALDH2の関連をさらに解析。ALDH2*2変異型と野生型のマウスに、あらかじめ11週間にわたりアルコール1g/kgを毎日与え、慢性アルコール状態を模した。この量は、体重60~70kgの人が1日に60~70gのアルコール(ドリンク4~5杯)を毎日飲むのと同等。ただ、実際にはマウスのアルコール代謝はヒトよりも早いため、1日2杯程度に相当するという。
結果、ALDH2*2変異型マウスでは、正常マウスと比較して、アルコール摂取によりフリーラジカルを多く発生していた。また、アミロイドβタンパク質やタウタンパク質の蓄積、神経炎症の増加など、ADの病態も変異型マウスで確認された。さらに、マウスの脳細胞を解析したところ、ALDH2*2変異型のマウスでは、ニューロンやアストロサイトでフリーラジカルの増加や細胞死が確認された。
今回の研究で、AD患者細胞レベルおよび動物モデルの研究から、ALDH2*2変異型とアルコールの関連性は明らかとなったが、ALDH2*2変異型保有がAD発症を高めるかどうかについては、さらに大規模な疫学調査やヒトにおける検証が今後行われる必要がある。一方で、これらの結果は飲酒量を減らすなどの予防に貢献する可能性はあると、研究グループは見ている。