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免疫チェックポイント分子PD-1、T細胞の活性だけでなく「質」を制御-東大ほか

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2020年01月14日 PM12:00

PD-1がどのようにT細胞の活性化を制御しているか

東京大学は1月9日、抑制性免疫補助受容体()PD-1がT細胞の質を制御するメカニズムを解明したと発表した。これは、同大定量生命科学研究所の清水謙次特任助教と岡崎拓教授(いずれも徳島大学先端酵素学研究所免疫制御学分野兼任)らの研究グループによるもの。研究成果は米国科学雑誌「MolecularCell」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

免疫システムにおいて司令塔と実行役の両方の役割を担うT細胞は、各々のT細胞に特異的な抗原を認識することによって活性化する。T細胞が活性化するとさまざまな遺伝子の発現が変化し、生存・増殖・分化・サイトカイン産生などの応答を示す。2018年にノーベル生理学・医学賞が授与された本庶佑博士とJames P.Allison博士の研究により、未治療の状態でもがん細胞に対する免疫応答がすでに誘導されているものの、PD-1およびCTLA-4という抑制性免疫補助受容体により無力化されていること、抑制性免疫補助受容体の機能を阻害することによりがん細胞特異的T細胞を活性化し、がんを治療し得ることが明らかになっている。

岡崎教授は2008年まで京都大学の本庶研究室に在籍し、PD-1による抑制の分子メカニズムなどの解明に関わってきた。これまでにPD-1がT細胞の活性化を抑制することは明らかにされていたが、T細胞の遺伝子発現をどのように変化させているかは不明だった。T細胞上に発現する抗原受容体(、以下TCR)が抗原を認識すると、TCRがリン酸化され、下流にシグナルが伝達される。PD-1はTCRのリン酸化を弱めることによりT細胞の活性化を抑制することから、T細胞の活性化により引き起こされる全ての遺伝子の発現変化をPD-1は一様に抑制すると考えられていた。一方、PD-1が機能するとT細胞が一時的あるいは長期的に機能不全状態に陥るなど、PD-1はT細胞の機能を質的にも変化させる。全ての遺伝子の発現変化を一様に抑制するという説では、T細胞を質的に変化させるメカニズムを説明できないため、T細胞の活性化をPD-1が実際にどのように制御しているのかは大きな謎だった。

PD-1によって抑制される遺伝子とされない遺伝子があることを発見

本研究グループはまず、T細胞をPD-1が働く条件と働かない条件で抗原刺激し、遺伝子の発現量を網羅的に調べた。その結果、T細胞を抗原で刺激した時に発現量が上昇する遺伝子には、PD-1によって抑制されやすい遺伝子とされにくい遺伝子があることを発見した。次に、T細胞を刺激する抗原の量を変化させて解析したところ、発現上昇に必要な抗原の量が遺伝子ごとに異なるということを見出した。

そこで、最大の発現上昇の半分の発現上昇を誘導する抗原の濃度(50%効果濃度、EC50)を各遺伝子について算出し。その結果、EC50の値は、遺伝子によって最大482倍も異なることがわかった。さらに、PD-1による抑制効果とEC50に正の相関関係を見出した。つまり、発現上昇に強い刺激が必要な遺伝子ほどPD-1によって抑制されやすいということが明らかになった。

遺伝子のプロモーター配列の特徴とPD-1による抑制効果の関係性を調べたところ、PD-1によって発現上昇が抑制されやすい遺伝子のプロモーター配列はCpGの頻度が低く、いくつかの特徴的な転写因子結合モチーフが濃縮されていることが明らかになった。CpGの頻度や転写因子結合モチーフの組み合わせなどによって各遺伝子のEC50が決まり、EC50の値に応じて各遺伝子の発現上昇がPD-1によって抑制されると考えられる。

最後に、PD-1によって発現上昇が抑制されやすい遺伝子の機能的な特徴を調べた。その結果、サイトカイン、CD40Lなど、T細胞が実際に機能を発揮する際にはたらく遺伝子の発現をPD-1が選択的に抑制していることがわかった。一方で、転写、アポトーシス、シグナル伝達などに関わる遺伝子の発現には、PD-1はあまり影響を与えていなかった。

PD-1阻害抗体の治療効果を事前に予測できる可能性

PD-1はT細胞の活性化の程度を単純に弱めるのではなく、特定の遺伝子を選択的に抑制することにより、T細胞の質を変化させることが明らかになった。すなわち、PD-1によって活性化が抑制されたT細胞は、単に少ない抗原量で弱く刺激されたT細胞とは質的に異なることが実験的に示された。

PD-1阻害抗体の治療効果は、がんの種類や個人によって大きく異なる。がん特異的T細胞の機能がPD-1によって強く抑制されている場合ほど、PD-1阻害抗体がより有効であると考えられる。「PD-1に抑制されやすい遺伝子とされにくい遺伝子の発現パターンを検査し、実際にがん特異的T細胞がどの程度PD-1によって抑制されているのかを判定することにより、PD-1阻害抗体の治療効果を事前に予測することができる可能性がある。また、PD-1に抑制されやすい遺伝子は、がんや自己免疫の治療標的として有用と考えられる」と、研究グループは述べている。

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