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「秒」の生化学反応と「時間」の生物活動、時間のギャップが生じる仕組みを解明-東大

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2020年01月09日 PM12:15

酵素反応は1秒以下なのに生物の行動時間スケールは遥かに長いのはなぜか?

東京大学は1月8日、50年以上前から知られている生体内タンパク質のアロステリック制御のモデルであるMonod-Wyman-Changeuxモデルを、酵素反応を含むモデルへと拡張し、計算機シミュレーションを用いて解析することで、酵素反応のそれぞれの反応がどんなに速くても、全体としての速度が数十万倍以上も遅くなりうることを示したと発表した。この研究は、同大大学院総合文化研究科の畠山哲央助教と金子邦彦教授によるもの。研究成果は、「Physical Review Research Rapid Communications」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

生体内の生化学反応の速度は一般的に1秒以下の時間スケールで進む。一方、生物が生きて行動する時間スケールは、それよりも遥かに長く、例えば体内時計の時間スケールは、10万秒ほどになる。つまり、生化学反応を支配する時間スケールと、生物が生きている時間スケールの間には、とても大きな隔たりがある。多くの生化学反応が集まって構成されているに過ぎない我々生物が、どのようにしてその時間スケールのギャップを埋めているかは、非常に基礎的で重要な問題であるにも関わらず、ほとんど何もわかっていなかった。

新たな計算で、各酵素反応が速くても全体の速度は数十万倍以上も遅くなりうると判明

今回の研究では、この溝を埋めているメカニズムの一つを理論的に明らかにした。まず、Monod-Wyman-Chnageuxモデルという50年以上前から知られている生体内タンパク質のアロステリック制御のモデルを、実際に生体内のさまざまな反応で行われているように、酵素反応を含む形へと拡張。拡張したモデルを、計算機シミュレーションを用いて解析し、それぞれの酵素反応がどんなに速くても、全体としての速度が数十万倍以上も遅くなりうることを示した。この時間スケールを遅くするメカニズムは、反応が進めば進むほど、酵素と結合しやすい状態の分子が増えていく一方で、それらの分子が酵素を独占するような状態になってしまうために、残りの分子が酵素とほとんど結合できずに全体として反応が遅くなるというものだった。Monod-Wyman-Changeuxモデルは、非常に古くから知られよく研究されているにも関わらず、このようなメカニズムは今まで知られていなかった。

さらに、このゆっくりと進む生化学反応において、各分子の数がどのように変化していくかを調べた結果、各分子の数は、最終的に一定の割合に落ち着くまでに多数のプラトーを示しながら、時間に対して対数的に変化することが判明。この時系列は、統計物理学においてよく知られている、ガラス中の分子の運動に非常に近いものだった。そこで、この生化学反応のモデルをさらに深く調べたところ、その中にガラスを支配していると考えられている仕組みのひとつである動的拘束模型と非常によく似た構造が潜んでいることがわかった。動的拘束模型とは、エネルギー的に安定な状態はシンプルであるものの、そこに遷移できる状態になるのに制限があるため、結果として安定な状態に至るまでの速度が遅くなるようなモデルを指す。生化学反応においては、酵素が結合しないと反応速度がほぼゼロになるという制限がかかるために、動的拘束模型のような仕組みが実現される。

・記憶などの時間スケールの仕組みを理解して制御する上での礎に

また、ガラスではさまざまな環境が変化した時に、液体とガラスでの転移が起こることが知られている。そこで、酵素の量などを変化させたところ、反応が進んで最終的に行き着く状態は酵素の量を変えても変化しないにも関わらず、その状態に至るまでにどのような反応経路を通るかは酵素の量に大きく依存した。さらに、反応が全て終わるまでにかかる時間は、酵素の量と温度を変えた際に、それぞれ統計力学における一次転移と二次転移に近い振る舞いを示すことがわかった。この転移の存在は、反応のわずかな揺らぎにより各細胞に流れる時間が大きく変化し、細胞ごとの多種多様な応答を示しうることを意味する。

今回の研究は、ミクロな生化学反応とマクロな生命現象の間を生命がどのように埋めているかを明らかにすることで、生命現象を支配する時間スケールがどのように決まっているかを理解しようというユニークなもの。時間スケールが重要な意味を持つ生命現象は、体内時計や睡眠、記憶など多岐に渡る。今回の研究成果は、これらの生命現象を支配する時間がどのように決まっているのかを理解するための、大きな礎となると考えられる。また、今回の研究で得られた生化学反応とガラスの間のアナロジーをより発展させることにより、将来的には、さまざまな生命現象を支配する時間スケールのコントロールが可能になることが期待される。(QLifePro編集部)

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