システインが過剰な酸化を受けるとタンパク質は不可逆的に劣化
東北大学は1月8日、タンパク質中のシステインの活性硫黄によるパースルフィド化が、不可逆的な機能不全からタンパク質を保護していることを明らかにしたと発表した。東北大学大学院医学系研究科環境医学分野の赤池孝章教授らとハンガリー国立がん研究所のNagy教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国科学誌「Science Advances誌」電子版に掲載されている。
生物は、生体内で分子を合成・代謝し生命活動を維持するために、さまざまな分子の間で電子を受け渡す反応(酸化還元反応)を行っている。この酸化還元反応において、タンパク質中の硫黄を含むアミノ酸「システイン」が重要な役割を担っている。しかし、システインが持つチオール基(CysSH)が、スルフィン酸(CysSO2H)やスルフォン酸(CysSO3H)へと不可逆的に過剰に酸化されると、酸化されたタンパク質の機能が著しく低下する。
画像はリリースより
生体内に多量に存在する「パースルフィド」が、不可逆的な機能不全からタンパク質を保護
赤池教授らの研究グループは、先行研究により、システインに硫黄が付加された物質(システインパースルフィド:CysSSH)が、生体内に多量に存在することを明らかにしてきた。タンパク質にも含まれているCysSSHは酸化されやすい一方で、酸化されたパースルフィドはジスルフィド結合を持つため、還元的に解離されることで可逆的に修復されることが想定される。
今回、研究グループは、タンパク質に含まれるシステインのパースルフィド化が、不可逆的な機能不全からタンパク質を保護していることを明らかにした。不可逆的な酸化であるシステインスルフィン酸(CysSO2H)やCysSO3Hに対して、システインパーチオスルフィン酸(CysSSO2H)やパーチオスルフォン酸(CysSSO3H)は可逆的に修復されることができ、それによって過度な酸化による損傷と劣化から保護されていることを発見した。
心疾患・がんなど酸化ストレスが関わる疾患の診断・予防治療薬開発に期待
通常、酸化されたシステインは、生体内の主要な還元系システムであるグルタチオン・チオレドキシン系により還元され、修復を受ける。質量分析を用いた解析により、グルタチオン・チオレドキシン系を破壊したマウスでは、対照の野生型マウスに比べて酸化されていないCysSHが減少し、過剰に酸化されたCysSSO3Hが増加していた。このことは、マウスの生体内にCysSSO2HやCysSSO3Hが豊富に存在し、タンパク質の酸化を防ぐことで、タンパク質の劣化が制御されていることを示している。以上の結果より、活性硫黄によるタンパク質のパースルフィド化は、生命の機能維持・寿命延長に極めて重要な役割を果たしていると言えるという。
今後、活性硫黄により生体内のタンパク質の劣化を制御し、タンパク質の品質管理と機能を維持、向上させることで、ヒトの老化防止・健康長寿が可能となり、さらには、慢性難治性の呼吸器疾患や心疾患、がんなど、酸化ストレスが関わるさまざまな疾患の予防・治療法の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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