頭皮上に置いた電極間に微弱な電流を流すニューロモデュレーション
国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は1月7日、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current stimulation:tDCS)が、統合失調症の認知機能、特にワーキングメモリーの改善に有効であることを、メタ解析法を用いて実証したと発表した。この研究は、NCNP精神保健研究所児童・予防精神医学研究部(予防部)住吉太幹部長および成田瑞(ジョンズ・ホプキンス大学医学部博士研究員および予防部研究生)らの研究グループによるもの。研究成果は、科学雑誌「Schizophrenia Research」に掲載されている。
画像はリリースより
統合失調症は、一般人口の約1%が罹患する原因不明の精神疾患。主な症状として陽性症状(幻覚、妄想など)、陰性症状(感情の平板化、引きこもりなど)、認知機能(記憶、注意、問題解決能力など)の障害などが挙げられる。特に認知機能障害は、患者の社会的転帰に重要であるとされている。
tDCSは、頭皮上に2つのスポンジ電極を置き、電極間に微弱な電流を流すニューロモデュレーションで、脳の神経活動を修飾する。これまで、比較的少数例を対象とした複数の臨床試験で、統合失調症の認知機能障害をtDCSが改善する可能性が示されてきた。しかし、複数の試験の結果を統合した検討は行われていなかった。
年齢などの因子にも影響されず、患者の社会復帰への貢献に期待
研究グループは今回、前頭部へのtDCSを複数回施行した無作為化比較試験を対象として複数の医療研究データベースから情報を取得。その中で対象となった9つの試験に対し、ランダム効果モデルを用いたメタ解析で、被験者268名に対する検討を行った。
その結果、認知機能の領域の中で、特にワーキングメモリーに対する有意な効果が示された。この効果は年齢などの因子に影響されず、また、出版バイアス(否定的な結果が出た研究は、肯定的な研究に比べて公表されにくいというバイアス)も認められなかったという。
今回の研究成果により、tDCSが統合失調症のワーキングメモリーに対して有効な治療法となり得ることが示された。これにより、tDCSが患者の社会復帰(復学、就労など)の転帰の改善のための有用な治療法となることが期待される。
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・国立精神・神経医療研究センター プレスリリース