SFTS発病の最も重要な鍵を握る、ウイルス感染の標的細胞の正体を探る
日本医療研究開発機構(AMED)は1月7日、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者の体内でウイルスがどのような細胞に感染するのかを解明したと発表した。この研究は、国立感染症研究所感染病理部の鈴木忠樹第四室室長、長谷川秀樹部長らが、同獣医科学部の森川茂部長(現 岡山理科大学獣医学部教授)、同ウイルス第1部の西條政幸部長らの研究グループと共同で行ったもの。研究成果は、「The Journal of Clinical Investigation」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome; SFTS)は、2011年に中国で初めて報告されたバンヤンウイルス属のSFTSウイルス(SFTSV)によるマダニ媒介性のウイルス感染症。これまでのところ、日本をはじめ、中国、韓国、ベトナムでSFTSの患者が報告されている。日本においては、最初の患者が2013年に報告されて以来、毎年70名以上が発症している。SFTSの致死率は15~25%程度でウイルス感染症としては非常に高く、日本でもこれまでに70名以上がSFTSにより亡くなっている。2018年には最もSFTS患者が多い中国の研究グループにより、SFTS患者の3割以上で出血症状が見られることが報告されており、現在、SFTSはウイルス性出血熱のひとつとして認識されている。また、2017年以降、日本においてネコやイヌなどのペットがSFTSを発症した事例の報告が相次ぎ、SFTSを発症した動物からヒトが感染する事例も報告されるなど、マダニ媒介性のウイルス性出血熱という側面だけでなく、ペットに由来する新たな人獣共通感染症という側面も持つ公衆衛生上の問題として、早急な対応が求められている。
ウイルス性出血熱では、病原体によらず臨床病態の類似性が見られる一方で、その発病機構は病原体により異なることが知られている。SFTSの発病機構に関する知見は、適切な予防・治療法の開発などの感染症対策を講じていくために必要不可欠な情報となる。これまで、日本ではSFTSで亡くなった患者の多くで病理解剖が実施され、さまざまな知見が報告されてきた。しかし、発病機構の重要な鍵を握るSFTSV感染の標的となる細胞の正体については明らかになっていなかった。
ウイルス感染の標的は「抗体産生細胞へ分化しつつあるB細胞」だった
今回の研究では、日本国内でSFTSにより亡くなった患者の組織検体を用いて病理組織学的な解析を行うとともに、培養細胞等を用いてウイルス感染の実験を行った。その結果、SFTS患者の体内においてSFTSVが感染した細胞は、リンパ節や脾臓などの二次リンパ器官で最も多く検出され、それらの感染細胞はマクロファージと「抗体産生細胞である形質芽球に分化しつつあるB細胞」であることが明らかになった。一方、二次リンパ器官以外の肝臓や副腎などの全身臓器にはSFTSVが感染したB細胞が分布しており、SFTSの発病機構にB細胞が深く関与していることが判明。このことから、SFTSは、単球系細胞や肝細胞、血管内皮細胞を主要な標的として感染するエボラウイルスやハンタウイルスなど他の出血熱ウイルスとは全く異なる、特異な発病機構を有したウイルス感染症であると考えられるという。また、今回研究グループは、ヒト形質芽球と似た特徴を持つ培養細胞株のPBL-1細胞を用いて、SFTS患者の体内で起こるウイルス感染を試験管内で再現が可能なSFTSV感染の実験系の開発にも成功した。
今回の研究成果は、今まで全く解明が進んでいなかったSFTS患者の体内でSFTSVの標的細胞を同定するという、ウイルス感染症の発病機構の解明において最も重要な知見をもたらすものであり、今後のSFTS対策のための基盤的な情報となる。さらに、今回開発されたPBL-1細胞を用いたSFTSV感染の実験系は、SFTS患者の体内で起こるウイルス増殖を忠実に再現できると考えられ、SFTSVがB細胞に感染する機構やその感染によって重篤な病態が引き起こされる機構を解明する研究と、SFTSに対する新たな予防・治療法の開発に貢献することが期待される。
▼関連リンク
・日本医療研究開発機構(AMED) プレスリリース