細胞表面に存在、細胞機能にも関わる重要な表面分子「ガングリオシド」
東京都健康長寿医療センター研究所は12月25日、細胞表面の糖脂質の1種「ガングリオシドGM2」が膵臓がんの増殖、浸潤、進行度と関連していることを発見したと発表した。この研究は、同センターの石渡俊行研究部長、豊田雅士研究副部長、佐々木紀彦係長級研究員らと、東海大学医学部の平林健一准教授、日本獣医生命科学大学の道下正貴准教授らによるもの。研究成果は、米国科学誌「Scientific Reports」誌のオンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
膵臓がんは、高齢者を中心に急速に増加しており、発見時にはすでにがんが浸潤、転移していることが多い。手術を受けられる人は20%程度で、生存率も未だ1割に満たない状況だ。そのため、膵臓がんの早期診断法や新たな治療法の開発が求められている。
細胞表面に存在する糖脂質の1群であるガングリオシドは、細胞の種類や細胞の状態によって発現が異なることから、表面マーカーとしての役割を担うだけでなく、シグナル伝達を制御するなど、細胞機能にも関わる重要な表面分子。ガングリオシドの1種であるGM2の膵臓がんにおける発現や役割については、これまで明らかになっていなかった。
組織学的に悪性度の高いヒト膵臓がんでGM2が高発現
今回、研究グループは、GM2の発現を8種類のヒト膵臓がん培養細胞を用いて調査した。その結果、MIA PaCa-2細胞で最も高い発現が見られた。GM2陽性の膵臓がん細胞は、GM2陰性細胞よりも増殖が速く、GM2陰性膵臓がん細胞を3次元培養すると、大部分のがん細胞がGM2を発現するようになり、がん幹細胞との関連が示唆された。また、GM2の発現を抑制することで、TGF-b1シグナルと上皮間葉転換様分化を抑制し、膵がん細胞の浸潤を阻害することを確認した。
続いて、ヌードマウスに移植したGM2陽性膵臓がん細胞は、GM2陰性細胞よりも高い発生率で、より大きな腫瘍を皮下に形成。また、発症年齢が若く、腫瘍径が大きく、病期が進行し、組織学的な悪性度が高いヒト膵臓がん患者で、有意にGM2の発現が増加していたという。
今回の研究では、世界で初めてガングリオシドGM2ががん幹細胞を含むヒト膵臓がん細胞およびヒト膵臓がん組織で発現していることを見出し、膵臓がんの増殖、浸潤、進行度と関連することを明らかにした。GM2が膵臓がん細胞の表面に発現していることから、GM2を標的とした膵臓がんの早期診断法の開発につながることが期待される。さらに、光免疫療法などの細胞表面抗原を利用した新たな膵臓がん治療にもGM2が役立つと考えられる、と研究グループは述べている。
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・東京都健康長寿医療センター研究所 プレスリリース