医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > TCRシグナル伝達にアクチン重合が不可欠、感染症や自己免疫の新規創薬に期待-京大

TCRシグナル伝達にアクチン重合が不可欠、感染症や自己免疫の新規創薬に期待-京大

読了時間:約 3分10秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年01月07日 AM11:00

アクチンとZap70によるTCRシグナル伝達の関係性を解析

京都大学は1月6日、T細胞受容体刺激によるシグナル伝達において、重要なシグナル分子であるタンパク質Zap70による基質LATへのシグナル伝達に、フォルミン()タンパク質ファミリーによって重合されるアクチンが不可欠であることを発見したと発表した。この研究は、同大の成宮周名誉教授(医学研究科特任教授)、タムケオ・ディーン医学研究科特定准教授、桂義親同博士課程学生らの研究グループによるもの。研究成果は、国際学術誌「Science Advances」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

T細胞は、(TCR)を介して抗原を認識することで、サイトカインの産生や細胞増殖といった活性化や分化を引き起こし、感染細胞の殺傷や抗体の産生など一連の免疫応答の引き金になる。この過程には、TCRの活性化による種々のタンパク質のリン酸化とそれに伴うシグナル複合体形成が非常に重要な働きをしていることが知られている(TCR シグナル伝達)。その中でも最も重要なタンパク質としてZap70と、その基質であるLATが存在している。しかし、Zap70によるLATのリン酸化がどのように制御されているのかは多くの議論がなされており、未だに明らかになっていない。また、TCRシグナル伝達には細胞骨格であるアクチンが不可欠であるということはわかっているが、アクチンが具体的にどのような機能によってシグナル伝達に関与しているのは不明だった。そこで今回研究グループは、アクチンとZap70によるシグナル伝達の関係性を明らかにするため、アクチンを核化・重合するタンパク質ファミリーのフォルミン(formin)に着目し、研究を行った。

TCR刺激でアクチンがダイナミックに重合・脱重合し、情報伝達を促進

まず、マウスから精製したナイーブCD8陽性T細胞とforminによるアクチン重合活性を阻害する薬剤SMIFH2を用いて、TCRシグナル伝達の過程におけるforminの関与を検討した。その結果、SMIFH2非存在下では、TCRを刺激しシグナル伝達を誘導することで、刺激後1.5分までにZap70およびLATのリン酸化が最大になることが確認された。また、このときのアクチンは無刺激状態に比べて輝度が高くなり、暗い部分と明るい部分の差が大きくなった。一方、SMIFH2の存在下で同様の実験を行ったところ、Zap70のリン酸化に有意な変化はなかったのに対して、LATのリン酸化が顕著に減弱することを発見。さらにこのときのアクチンの輝度は無刺激の細胞のものと有意な差が無く、かつSMIFH2非存在下で刺激した細胞よりも顕著に輝度が低いことがわかった。これらの結果から、T細胞においてforminのアクチン重合がZap70によるLATのリン酸化を促進する機能を果たすことが明らかになった。

次に、より生理的な条件下での検討を行うために、人工的な脂質二重膜に抗原と接着分子を組み込み、T細胞による抗原認識の際に形成される構造(免疫シナプス)を模倣した。免疫シナプスのイメージングの結果、リン酸化されたZap70およびLATはシナプス面に局在し、それらを上側からおさえるようにアクチンが局在していた。ところがSMIFH2によるformin活性の阻害により、LATのリン酸化の大幅な減弱とリン酸化Zap70の細胞質への拡散が認められた。また、この際アクチンの重合はほとんどなされず無秩序な構造となっていた。この結果から、formin活性依存的なアクチンがZap70の局在を制限することにより、LATへのリン酸化を促進していることが示唆された。

forminファミリーの中でもmDia1とmDia3が特に重要

最後に、forminファミリーの中でどのタンパク質が重要であるのかを明らかにするため、T細胞に発現するforminを解析。その結果、forminファミリーのうちmDia1とmDia3が高発現していることを見出した。そこでその双方を遺伝子欠損させたところ、上述のSMIFH2を用いた実験で確認された現象が再現された。加えて、マウスの胸腺において胸腺細胞の分化に異常をきたしていることも発見した。胸腺細胞の分化にはTCRシグナル伝達が必須であるため、今回発見した機序が成熟したT細胞の機能のみならず、T細胞の発生にも関与していることが明らかになった。

今回の研究により、T細胞の抗原刺激応答にformin依存的なアクチンが不可欠であることが示され、中でもmDia1/3が特に重要であることが明らかになった。T細胞による抗原認識は感染防御のみならず、自己免疫疾患においても最初期に関与する。そのため、今回の研究で得られた知見をもとに自己免疫疾患に対する新たな治療法が開発される可能性がある。また、特定の白血病におけるT細胞ではmDiaを活性化させるタンパク質のRhoAに遺伝子変異があることが報告されている。本来抗原刺激が無ければ増殖できないT細胞が無秩序に増殖することと、今回の研究で見出されたmDiaによるTCRシグナル伝達の促進との関連を解析することで、白血病発症のメカニズムの一部を解明できる可能性が期待される。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大