脳卒中後の経管栄養、再度、経口栄養を獲得することの利点は?
東京医科歯科大学は12月27日、経口摂取の重要性を細菌学的な観点から証明したと発表した。これは同大大学院医歯学総合研究科歯周病分野の片桐さやか助教と高齢者歯科学分野の戸原玄准教授の研究グループによるもの。成果は、国際科学誌 「Frontiers in Cellular and Infection Microbiology」に掲載されている。
画像はリリースより
脳卒中後に経口栄養が不可能になり、経管栄養とならざるを得ない患者は多い。経口栄養を再獲得させるために行うリハビリテーションに摂食嚥下訓練があり、これにより再び口から食事を摂取できるようになったという報告は多くある。口腔と大腸は腸管を通じてつながっており、食物、だ液、口腔内細菌は嚥下によって腸管へと流入しているため、これらが腸内細菌叢の変化に影響を及ぼす可能性がある。しかしながら、経口栄養がどのように腸内細菌叢に影響しているかは未だ不明だ。そこで、研究グループは経口栄養の再獲得と口腔内および腸内細菌叢との関連を細菌学的に検討した。
口腔内と腸内細菌叢の多様性が増加、経口栄養時により発現しうる代謝経路が関連か
研究グループは、脳卒中の亜急性期に経管栄養となり、その後、摂食嚥下訓練を受け経口摂取となった8人を対象に調査。唾液と便の採取を、摂食嚥下訓練前の経管栄養時および摂食嚥下訓練によって経口栄養となった後に行った。なお、この期間の患者の摂取カロリーは一定に保たれている。その後、次世代シークエンサーを用いて、口腔内および腸内細菌叢の細菌種の同定、細菌種間の相関関係、その細菌叢の予測される機能(機能遺伝子)を解析した。
結果、経口栄養を再獲得することにより、口腔内および腸内細菌叢の多様性が増加し、細菌叢の組成が変化していることを見出した。加えて、Carnobacteriaceae科とGranulicatella 属の細菌量が経口食物摂取の再開後、口腔および腸内の両方で増加していることが確認された。また、細菌同士の相関関係を示したネットワーク構造も、経口栄養の再獲得後には口腔内および腸内ともに、ひとつのネットワークに、より多くの細菌が関わるように変化していた。機能予測解析の結果から、経管栄養時と比較して、経口栄養時により発現しうる代謝経路があることが明らかになった。
今回の研究により、摂食嚥下障害の患者に対する摂食嚥下訓練は、口から食べられるように機能を回復するだけではなく、口腔内と腸内の細菌叢の多様性を増加させ、微生物群集の組成およびその共起ネットワーク構造を変化することを見出した。「腸内細菌叢がさまざまな疾患に影響することはすでに知られており、経口栄養の再獲得が、全身の健康の維持にも重要であることを細菌学的な見地から示した発見であり、今後の医療戦略を考える上で意義のある成果といえる」と、研究グループは述べている。
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