がん細胞のプロテオーム情報を用いて、個人レベルの最適な治療選択を可能に
医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)は12月26日、がん患者の内視鏡検査で採取した生体検体からリン酸化部位を測定し、患者ごとのリン酸化シグナルの特性を明らかにする技術を開発したと発表した。これは、同研究所のプロテオームリサーチプロジェクト・創薬標的プロテオミクスプロジェクトの足立淳プロジェクトリーダー、朝長毅上級研究員、阿部雄一協力研究員、国立がん研究センター朴成和消化管内科長(中央病院副院長)らの研究グループによるもの。成果は「Theranostics」電子版に掲載されている。
抗がん剤として用いる分子標的治療の多くはタンパク質に直接作用するため、がん細胞内のタンパク質全体(プロテオーム)の情報は、治療法の選択に有用であると期待されている。特にタンパク質のリン酸化修飾を介した「リン酸化シグナル」は、がん細胞のさまざまな機能を制御し、リン酸化シグナルを標的にした抗がん剤も多数開発されていることから、がん精密医療への応用が期待されている。しかし、手術検体等を用いてリン酸化シグナルを解析する場合、手術操作による阻血などの影響のため、体内の状況を反映したデータを取得することがこれまでは困難だった。
内視鏡で検体採取後20秒以内に液体窒素で凍結、患者ごとに特異性が高いと判明
内視鏡用の生検鉗子を用いて採取された生検検体を採取後20秒以内に液体窒素で凍結させることで、リン酸化シグナルの変化を極力抑えたサンプルの採取法を構築。5人の胃がん患者からそれぞれがん部・非がん部を採取し、生検検体に特化したリン酸化プロテオーム解析により1万162個のリン酸化部位を同定した。がん部と非がん部ではリン酸化プロファイルは大きく異なり、がん部位では細胞周期に関連するタンパク質、DNA損傷に応答するタンパク質のリン酸化が亢進していることが確認された。また患者ごとに比較すると、リン酸化情報から取得したキナーゼ活性プロファイルは患者ごとに特異性が高いことも判明した。
この技術は、その他の種類のがんにも適用することが可能である。また、生検検体は経時的に採取することができるため、治療前の治療法の選択だけではなく、治療後の変化をみることで、患者ごとに治療の効果判定を迅速に行うことや適切な併用薬の選択が可能になることが期待される。「このような次世代型がん精密医療が実現すれば、個々の患者に適した薬剤の提供、医療費の抑制、臨床試験の成功率の向上につながる可能性が高まる」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・医薬基盤研究所(NIBIO)お知らせ