皮膚ガスは非侵襲的モニタリングに有用も、微量すぎるのが課題だった
東京医科歯科大学は12月25日、経皮放出される血中揮発性成分の濃度分布の非侵襲的リアルタイムイメージング装置(sniff-cam)を開発し、発汗が少なく表皮が薄い耳周辺領域、中でも耳道開口部が血液中に含まれる揮発性成分の非観血計測に適した部位であることを発見したと発表した。この研究は、同大生体材料工学研究所センサ医工学分野の三林浩二教授の研究グループによるもの。研究成果は、国際科学誌「ACS Sensors」のオンライン版に公開されている。
画像はリリースより
呼気や皮膚ガスには血中に存在する揮発性有機化合物(VOCs)が含まれ、疾患や代謝の状況に応じて経時的に濃度が変化、特異な成分が放出することが知られている。呼気は非侵襲的な採取が容易であり医療応用の実績があるものの、長時間連続して計測するには特殊なマスクを装着し続ける必要があるなど、経時的なVOCsの濃度変化を観察するためには必ずしも最適なサンプルではなかった。
一方、皮膚ガスは無意識のうちに恒常的に放出され、経時的な濃度変化の計測によるモニタリングに適するサンプルと考えられてきた。しかし、濃度がpptからppbレベルと極めて低いため、計測対象部位を密閉し、長時間にわたる皮膚ガスの採取、濃縮などの前処理ののち、ガスクロマトグラフィー質量分析装置などの大型分析装置で計測することが一般的だった。そのため、皮膚ガス放出の理解には、広大な面積を有し、身体の部位により汗腺の密度、表皮層数などが異なる皮膚特性と皮膚ガス放出を関連付けた実験的計測が必要であり、従来法では、一定面積から一定時間中に放出される皮膚ガス総量の分析が必要となるため、詳細な皮膚ガス成分の評価が困難だった。
開発した「探嗅カメラ」でアルコール代謝の非侵襲モニタリングに成功
この課題を解決するために今回、研究グループは、ヒト皮膚から経皮的に放出される血中VOCsの濃度分布を経時的に観察可能な「ガスイメージング装置(探嗅(たんきゅう)カメラ)」を開発。また、経皮ガスの放出を模倣した新たなガス負荷法、および複雑な曲面を有する体表面における正確なガスイメージングを実現するためのフィッティングデバイス(二次元真弧:マコ)を新規に開発した。
実証実験として汗腺密度や表皮層数の異なる手掌、手指、手背、足裏、耳を対象部位として一定量のアルコール飲料を摂取後の健常被験者より放出される皮膚ガス中のエタノール、そして代謝産物であるアセトアルデヒドの濃度分布をリアルタイムに画像化し、アルコール代謝の非侵襲モニタリングに成功。探嗅カメラがエタノール(またはアセトアルデヒド)を検出する仕組みには、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)依存型アルコール脱水素酵素(ADH)の触媒反応を用いたバイオ蛍光法を用いた。これにより、従来の手法では観察することの困難であった「身体部位により異なる汗腺分布および表皮層数」と「皮膚から放出されるVOCs」の関係の考察が可能になった。特に、薄い表皮下に毛細血管が密に分布し、かつ汗腺の少ない耳周辺領域が経皮VOCs計測に適する部位であることも判明した。これは、今後の「皮膚での血液ガス計測」につながる大きな成果だ。
皮膚から放出される揮発性成分というと一番に思い浮かばれるのは、いわゆる「体臭」だが、実際には「無臭成分」や「極低濃度のガス」も放出されている。開発した探嗅カメラでは、匂いのないガス成分や微量成分でも、濃度分布情報を定量的かつ視覚的に表示できる。研究グループは、「非侵襲的な皮膚ガス計測による非侵襲・無意識下での代謝状態モニタリングの他、疾患の新規な早期スクリーニング法 、さらには 「人工の探知アラート犬」 の開発が期待される」と、述べている。
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