卵巣がんの悪性度にIL-34がどう関わっているかを検討
北海道大学は12月24日、卵巣がん患者の病巣における液性生理活性因子インターロイキン-34(IL-34)が、がんの悪性度を高める一因であることを初めて解明したと発表した。この研究は、同大遺伝子病制御研究所の清野研一郎教授、同大大学院医学研究院産婦人科学教室の渡利英道教授、聖マリアンナ医科大学産婦人科学教室の鈴木直教授、滋賀医科大学医学部臨床腫瘍学講座の醍醐弥太郎教授(東京大学医科学研究所特任教授を兼任)、神奈川県立がんセンター臨床研究所の宮城洋平所長らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Immunology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
卵巣がんは婦人科がんにおいて子宮がんに次いで2番目に致死率の高いがん。初期における自覚症状が乏しいため、卵巣がん患者の多くは進行期での診断となることが大きな問題となっている。また、発見後は原発巣の外科的摘出及び一次化学療法による治療が一般的でだが、その後の再発率が高い。そのため、卵巣がん患者の治療効率を高めるには、がんの進行および再発に寄与する要因の特定が必要だ。
サイトカインのひとつであるIL-34の発現は、正常なヒトでは脳や皮膚に限定されているが、近年さまざまな種類のがん種の病巣において発現が確認され、がんの進行や転移に関与することが報告されている。しかし現在までに卵巣がんにおけるIL-34の作用に関する報告はなかった。そこで今回、研究グループは、新たな治療の標的となり得るIL-34に着目し、卵巣がんの悪性度への寄与を検討した。
卵巣がん細胞が出すIL-34が免疫環境に影響することで増悪の可能性
まず、北海道大学大学院医学研究院産婦人科学教室(婦人科腫瘍学)、聖マリアンナ医科大学産婦人科学教室、文部科学省科学研究費新学術領域研究「コホート・生体試料支援プラットフォーム(CoBiA)」から提供を受けた臨床検体を用い、これらの検体におけるIL-34の発現と検体情報から、卵巣がんの病巣におけるIL-34とがんの悪性度及び患者の予後との関連性を検証。その結果、ステージが3、4にまで達している患者の検体におけるIL-34の発現率は、ステージが1、2の患者よりも高いと判明。また、外科的手術及び抗がん剤治療を行った後に再発した検体では、原発巣と比べIL-34の発現が高いレベルで検出された。
また、ヒトの卵巣がん細胞株であるKF28、OVTOKO、OVISEおよびマウスの卵巣がん細胞株であるHM-1におけるIL-34の発現をリアルタイムPCRやELISAと呼ばれる手法で解析した結果、抗がん剤を添加した後に生存した細胞では、IL-34の産生に必要な遺伝子の発現が上昇することを発見した。
さらに、IL-34を発現するHM-1から、CRISPR-Cas9システムを用いてIL-34ノックアウトHM-1株(IL-34KO HM-1)を樹立し、元株であるHM-1およびIL-34KO HM-1のそれぞれを、実験用マウスの卵巣に直接移植。その後、マウスの生存期間の観察と原発巣である卵巣腫瘍内に浸潤している免疫細胞を解析することで、がん細胞に由来するIL-34の卵巣がんの悪性度への寄与を検証した。その結果、IL-34KO HM-1を移植した群において有意に生存期間が延長されることが判明。加えて、卵巣がん細胞の移植後10日目に原発巣である卵巣の腫瘍を摘出し、腫瘍内に浸潤する細胞を解析したところ、がん細胞を攻撃する役割を担うキラーT細胞の割合は、IL34KO HM-1が形成する腫瘍で高い傾向にあることがわかった。これらの結果から、卵巣がん細胞から産生されるIL-34は腫瘍内の免疫環境に働きかけ、がんの悪性度を高めている可能性が示唆された。研究グループは、「卵巣がんに対する治療における新たな治療の標的となる分子としてIL-34が有用である可能性がある」と、述べている。
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