日本の薬局薬剤師が高血圧患者を対象にカナダの薬局薬剤師と同様の介入を行うと、25年間で20兆5500億円の医療費削減効果が見込めることが、岡田浩氏(京都大学大学院医学研究科健康情報学研究室)らのグループが実施した研究で明らかになった。カナダの一部地域では、処方権を持つ薬局薬剤師の適切な薬物療法の管理によって血圧コントールが改善することが示されており、日本でも大きな効果が期待できるという。
カナダのアルバータ州では、薬局薬剤師が医師の指示のもとではなく、独立して処方権を持ち、降圧薬の投与開始や投与量変更などの薬物療法の管理を担っている。薬剤師が薬物療法の管理を行った効果を検証したランダム化比較試験「RxACTION」では、医師が処方し、薬剤師が投薬する従来治療群の収縮期血圧が11.8mmHg低下したのに対して、薬剤師が処方を行う薬剤師管理群では18.3mmHgと大きく低下することが示された。薬剤師は医師に比べてガイドラインを遵守する傾向が強いため、血圧値に差が生じたと考えられている。
試験結果をもとに、研究グループは日本でもカナダと同様の介入を薬局薬剤師が行った場合の医療費削減効果を試算した。日本の高血圧患者の6割が血圧コントロール不良で、不良群の半数に薬剤師が介入すると仮定。薬剤師の初回面談費用は6500円、2回目以降の面談費用は2500円とし、医療費削減効果を推計した。その結果、高血圧患者1290万人の管理を薬局薬剤師が25年間行った場合、従来治療群に比べて心血管疾患の発現リスクは21%低下。心筋梗塞、脳卒中、狭心症、心不全などの心血管イベントを640万件以上回避でき、薬剤師の面談費用を差し引いても、25年間で20兆5500億円の医療費削減が見込まれることが明らかになった。
岡田氏は「高血圧の有病率が高く、血圧コントロールが不良の患者が多い日本のような国では、こうした介入は通常のケアと比べて効果的であるだけでなく、費用の節約にもなる。このことは、日本の医療制度にとって、重要な意味合いを持つ」と話している。
研究結果は、アメリカ高血圧学会誌のオンライン版に掲載された。推計モデルはウェブサイトでも公開している。