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放射線による胸腺障害の修復に重要な機構を発見、環境ストレスや老化でも-理研ほか

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2019年12月23日 PM12:30

これまで困難だった解析を、実験データと数理モデルを組み合わせて

(理研)は12月19日、リンパ組織である「」が機能傷害を受けた後に修復する過程についての数理モデルを構築し、その解析により胸腺修復に重要な新たな機構を明らかにしたと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター免疫恒常性研究チームの秋山泰身チームリーダー、東京大学生産技術研究所の小林徹也准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英国の科学雑誌「Communications Biology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

ヒトを一生涯取り巻くさまざまな環境変化には、免疫系に悪影響を与えるものが少なからず存在する。例えば、放射線のような物理的ストレスや心理的ストレスなどの環境変化は、免疫応答に重要なTリンパ球を産生する臓器の「胸腺」に傷害を引き起こすことが知られている。ストレスなどにより傷害を受けた胸腺は、そのストレスがなくなると修復を始める。修復が不完全な場合、免疫不全や自己免疫疾患などの疾患のリスク因子になると考えられている。そのため、胸腺の修復機構を理解することは、さまざまなストレスなどの環境変化により惹起あるいは増悪する疾患の予防や治療を行うためにも重要な課題といえる。

胸腺を構成する細胞は、主に未熟Tリンパ球と胸腺上皮細胞に分類される。胸腺が傷害を受けて修復するまでには、それらの細胞が時間の経過とともに増殖、分化そして相互作用すると予想される。しかし、その一連の過程は複雑であり、実験的にデータを取得するだけでは、その全貌を解明するのは困難だった。こうした背景のもと、研究グループは、実験データと数理モデルを組み合わせることでその課題解決に挑んだ。

胸腺修復過程で未熟Tリンパ球が急激に増殖し、その後自己抑制

致死量に満たない放射線をマウスへ一過的に照射すると、胸腺は急激に傷害を受けるが、しばらくすると修復する。研究グループは、まずマウスの全身へ放射線を照射し、その修復過程において継時的に胸腺を採取した。胸腺内には、さまざまな分化段階の未熟なTリンパ球に加えて、それらの分化に重要な胸腺上皮細胞が存在し、それぞれの細胞数は胸腺傷害からの修復時に経時的に変化すると予想される。そこで、採取した胸腺について、さまざまな分化段階の未熟Tリンパ球と胸腺上皮細胞をフローサイトメーターにより分離・検出し、時間依存的な細胞数の変動を決定した。次に、この細胞数変動を定量的に再現しうる細胞間相互作用の組み合わせと対応する数理モデルを、最適化手法などを援用して探索した結果、細胞変動を極めてよく再現し得る数理モデルの構築とパラメータの同定に成功。得られたネットワークの構造と細胞の増殖率や分化率などのパラメータの推定範囲は、これまでに行われた分化実験データから推定されていた知見とよく整合することが確認された。

さらに、得られた数理モデルを検討したところ、これまであまり増殖が盛んでないと考えられていた、CD4CD8両陽性の未熟Tリンパ球(DP細胞)が急激に増殖し、さらに細胞数が十分に増えると自己抑制が起きるという細胞数制御の新たな機構が推測された。そこで、この機構を実験的に検証するため、増殖マーカーであるKi67タンパク質の発現を測定し、胸腺修復時の細胞増殖の状態を調べた。その結果、予想通り、DP細胞が急激に増殖し、次いで急激に増殖停止することが分かり、今回樹立した数理モデルの妥当性が証明された。

研究グループは、「傷害を受けた胸腺の回復を精密かつ迅速に行うことで、疾患発症のリスクを下げる手法の開発へ発展が期待でき、またストレスのみならず、老化によっても胸腺は萎縮し、高齢者の免疫能低下の原因の一つであると考えられていることから、老化による胸腺萎縮を抑制する手段の開発につながる可能性もある」と、述べている。

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