視野よりも視力の低下で困っている下垂体腫瘍患者が多い
群馬大学は12⽉16⽇、脳腫瘍のひとつである「下垂体腺腫」の視力低下を引き起こすメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同⼤⼤学院医学系研究科脳神経外科学の登坂雅彦准教授と⼭⼝玲助教らの研究グループによるもの。研究成果は、⽶国脳神経外科学会誌「Journal of Neurosurgery」オンライン速報版に掲載された。
視神経は、視覚を司る重要な感覚神経で、眼球と脳をつなぎ、あらゆる視覚情報を脳に伝達する。視神経は、右側の神経と左側の神経が頭蓋内で交叉する視交叉という特殊な構造をとっている。下垂体腫瘍は、この視交叉付近に生じることから、両⽿側(外側)半盲という特殊な視野の異常が生じることが知られている。その為、眼科医や脳神経外科医などの臨床医は、この両⽿側半盲を頼りに下垂体腫瘍を疑う。
同研究グループは、多くの下垂体腫瘍患者において、実際は例外が多いと感じており、視野の異常は少なく、0.5や1.2などの数値で表される視⼒が極端に悪くなっている症例が多くいることに気付いたという。そこで、多数例の下垂体腫瘍の患者の症状を、視覚に関するスコアリングシステムを⽤いて検討した結果、視野よりも視⼒の低下で困っている患者が多いことが明らかになった。
視神経管の入り口部分で視神経が折れ曲がることで視力低下
下垂体腫瘍症例において、特殊な⽅法で撮影したMRIを詳細に検討した結果、視⼒が悪化している症例では、視神経が⽬の奥の視神経管の入り口部分で折れ曲がっていることを確認。視神経管の入り口部分より先の⽬に近い側では、⾻の管の中を通過する為、視神経は固定されている。しかし、視神経管の入り口部分より⼿前の脳に近い側は脳内であり、視神経は腫瘍によって簡単に移動する。よって、視神経管の入り口部分で視神経が折れ曲がりやすく、これによって視⼒が低下することを明らかにしたとしている。
画像はリリースより
また、MRI画像で視神経の屈曲⾓度を計測したところ、視神経の折れ曲がりが強いほど視力が低下していた。視神経が折れ曲がっている場合、腫瘍の摘出手術で折れ曲がりを解除すると、劇的に視⼒が改善することもわかったという。
同研究グループの群⾺⼤学⼤学院医学系研究科脳神経外科学の好本裕平教授は、「この腫瘍によって生じる両耳側性半盲があまりにも有名な為、今までこの視神経の屈曲について全く気付かれていなかった。下垂体腫瘍の早期発⾒につながる可能性があり、⼿術⽅法にも影響を与えるだろう」と、述べている。
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・群馬大学 プレスリリース