国内外の計115症例について網羅的なゲノム解析を実施
東京大学は12月13日、脱分化型脂肪肉腫115症例の検体を用いて網羅的なゲノム解析を行い、その腫瘍の発生、進展に関わる特徴的な遺伝子異常を明らかにしたと発表した。この研究は、同大医科学研究所の平田真特任講師(研究当時)、片山琴絵助教、山口類准教授(研究当時)、同大大学院新領域創成科学研究科の松田浩一教授、国立がん研究センター研究所 の浅野尚文任意研修生(研究当時)、市川仁臨床ゲノム解析部門長、国立がん研究センター中央病院、東京都立駒込病院、九州大学、大阪国際がんセンター、千葉県がんセンター、名古屋大学、神奈川県立がんセンター、北海道がんセンター、理化学研究所らの共同研究グループによるもの。研究成果は、英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
悪性軟部腫瘍は、日本における発生頻度が年間10万人当たり3.1人程度と非常に少なく、他の種類のがんと比べて研究開発が遅れているがんのひとつ。今回の研究では脂肪肉腫のひとつとして知られる脱分化型脂肪肉腫について、骨軟部腫瘍ゲノムコンソーシアムで65症例の検体を収集。全エクソンシークエンス(WES)解析およびRNAシークエンス(RNAseq)解析を実施し、そのゲノム情報を収集した。また、海外のがんゲノム解析の研究プロジェクト(TCGA: The Cancer Genome Atlas)において同様に脱分化型脂肪肉腫の検体を用いて実施された50症例のWES解析およびRNAseq解析のデータを入手し、総計115症例について同じデータ解析手法を用いて、脱分化型脂肪肉腫において高頻度に存在する遺伝子異常の特徴を明らかにした。
コピー数異常が中心、特異マーカー候補や新規予後予測因子を発見
得られたゲノム情報から高頻度に存在する遺伝子異常を解析したところ、TP53やATRXなど既知のがん関連遺伝子の異常が確認されたものの、全体としての遺伝子変異の数は少ないことが示された。しかし、83領域、812遺伝子においてコピー数の異常が高頻度に確認され、コピー数の異常が脱分化型脂肪肉腫における遺伝子異常の中心であることが判明した。なお、これまで報告がなかったDNM3OSの融合遺伝子が、全体の8%程度の症例に存在することが明らかになった。この融合遺伝子は高分化型脂肪肉腫においては検出されず、脱分化型脂肪肉腫の特異的なマーカーの一つとして有用である可能性が示唆されている。
さらに、得られた遺伝子異常と症例の臨床情報との関連性について検討し、いくつかのコピー数の異常が脱分化型脂肪肉腫の予後と有意に関連することが判明。この結果に基づく新たなゲノム分類は、多変量解析により、既知の予後予測因子と独立した新たな予後予測因子であることが示された。
治療薬開発に役立つ遺伝子異常データベースの一部に
脱分化型脂肪肉腫の一部は良性・悪性の中間に分類される高分化型脂肪肉腫から発生することが知られており、脱分化型脂肪肉腫の腫瘍組織には高分化型脂肪肉腫様の成分(高分化成分)を含むものがある。今回の研究では、一部の症例について高分化成分と脱分化成分(脂肪への分化を示さない高悪性度を示す成分)の双方の組織を収集し、同時にWES解析およびRNAseq解析を行うことができた。その解析結果を比較したところ、染色体12q15領域の増幅などのコピー数の異常が2つの成分に共通して存在することを確認。これらは、腫瘍発生の初期に関わる遺伝子異常と考えられる。また、高分化成分には存在せず、脱分化成分のみに存在する遺伝子異常を探索した結果、いくつかの遺伝子が脱分化型脂肪肉腫のみにおいてコピー数の異常を引き起こし、悪性への転化に重要な役割を果たしている可能性があることが明らかになった。
今回の研究により、脱分化型脂肪肉腫の発生から進展の各段階に関わる遺伝子異常の特徴が明らかとなった。研究グループは、「脱分化型脂肪肉腫をはじめとする悪性骨軟部腫瘍は、その希少性と診断の難しさから個別化医療に向けた研究開発が遅れる分野のひとつとなっているが、今後、同様の解析を他の悪性骨軟部腫瘍においても実施することで、悪性骨軟部腫瘍に対するより精緻な予後の予測モデルや新たな治療薬の研究開発が進んでいくことが期待される」と、述べている。
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