「幼児期に米を食べる」ことで成人期の肥満抑制に効果はあるのか
新潟大学は12月12日、マウスにおいて幼少期の米(胚乳)タンパク質摂取が成熟期の肥満やそれに関連する腎臓病を抑制することを明らかにするとともに、その機序に腸内菌叢が関与することを見出したと発表した。これは、同大大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎膠原病内科大学院生の樋口裕樹、同センター病態栄養学講座の細島康宏准教授、同センター機能分子医学講座の斎藤亮彦特任教授らの研究グループと亀田製菓株式会社の共同研究によるもの。成果は「Nutrients」に掲載されている。
画像はリリースより
米は、アジア地域の主要な穀物であり、6%程度のタンパク質が含まれている。日本では肉や魚に次いで3番目、植物性タンパク質としては最も多く、米からタンパク質を摂取しているが、その摂取量は年々減少傾向にある。そのような状況の中、研究グループはヒトにおける米(胚乳)タンパク質(Rice Endosperm Protein, REP)摂取による脂質代謝改善作用や、動物モデルにおける糖尿病性腎症の進行抑制作用を報告してきた。さらに最近、欧州から、若年時の植物性タンパク質の摂取がその後の肥満を抑制するとの報告もあったが、その詳細は明らかではなかった。そこで研究グループは、マウスを用いて幼少期におけるREPの摂取がその後の肥満および肥満関連腎症へ影響するかを検討することとした。
10週齢までREP摂取マウスで、成熟期の高脂肪食摂取による腎障害の進行抑制
研究グループはまず、マウスに4パターンの食事を与えて検討した。
・幼少期 CAS、成熟期 CAS
・幼少期 CAS、成熟期 REP
・幼少期 REP、成熟期 CAS
・幼少期 REP、成熟期 REP
幼少期は4~10週齢で、動物性タンパク質であるカゼイン(Casein, CAS)または REPを含む通常脂肪食を与えた。成熟期は10~22週齢で、いずれかのタンパク質を含む高脂肪食を負荷した。評価は、血液検査、尿検査、体重、腸内細菌叢などで行い、腎病理所見を検討した。また、22週齢時の各測定データを用いて、幼少期と成熟期の摂取タンパク質の違いを解析した。
10週齢時には、CAS摂取群とREP摂取群で体重増加に大きな差は認められなかったが、22週齢時には、幼少期・成熟期ともにCASを摂取したマウスの体重が最も高値を示した。一方、幼少期にREP、成熟期にCASを摂取したマウスでは、成熟期にCASを含む高脂肪食を負荷したにもかかわらず、体重の増加が抑制されていた。また、幼少期におけるREP の摂取は、CASの摂取と比べて体重や脂肪重量、血糖、総コレステロールなどの増加が抑制されていた。さらに、高脂肪食負荷による腎障害への影響について検討したところ、幼少期に REPを摂取したマウスでは、CASを摂取したマウスに比べ、尿中アルブミン排泄量などの腎障害所見が抑制されており、幼少期のREP摂取が、成熟期の高脂肪食負荷による腎障害の進行抑制に関与している可能性が示唆された。
REP摂取は腸内細菌叢の多様性を高め、慢性的な全身性の炎症の抑制
続いて、幼少期のREP摂取が高脂肪食負荷による肥満や肥満関連腎障害の進行を抑制するメカニズムを検討。すると、幼少期のREP摂取が腸内細菌叢の多様性を高めるとともに、大腸菌の占有率を低下させることがわかった。また、グラム陰性菌である大腸菌のリポ多糖(Lipopolysaccharide, LPS)結合タンパク質(LPS binding protein, LBP)産生が、幼少期の米タンパク質摂取により抑制され、さらに、LPSに関連する炎症性サイトカインIL-6、TNF-αの産生も同様に、血清、腎、肝のいずれにおいても抑制されていることも判明した。また、この機序には、REPの消化物であるペプチドの関与が示唆された。
以上の知見から、マウスにおいて、幼少期のREP摂取が腸内細菌に影響を与え、多様性を高め、大腸菌の占有率を低下させ、内毒素であるLPSの産生を抑制し、慢性的な全身性の炎症の抑制を介した肥満または肥満関連腎症の進行を抑制することが示唆された。「今後、ヒトでの研究を重ねることで、REP摂取のヒトにおける適切な摂取時期や摂取量についても検討したい」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・新潟大学 研究成果