高齢者など歩行が不安定になった人が、簡便に正常な歩行を体験するための補助機器
京都大学は12月12日、歩行学習支援ロボット「Orthobot(オルソボット)」を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の大畑光司講師、川崎詩歩未同博士課程学生、佛教大学保険医療技術学部の坪山直生教授、京都工芸繊維大学機械工学系の澤田祐一教授、東善之同助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「IEEE Int Conf Rehabil Robot」に論文掲載され、第13回国際リハビリテーション医学会世界会議で学会発表された。同機器は製品化され、2020年3月にフィンガルリンク株式会社を通じての発売を予定している。
リハビリテーションのロボット化は、高齢社会の日本における健康寿命の延伸を目指す上で必要な取り組み。しかし、従来のリハビリテーションロボットは装着に時間がかかり、専門家による設定が必要なことなどを理由に、特に専門家のいない介護現場で簡便に用いることが難しい状況だ。
同機器は高齢者を含め、歩行が不安定になった人に対して、より簡便に正常な歩行を体験させるための補助を行う機器として開発された。京都大学医学研究科人間健康科学系専攻の脳卒中リハビリテーションやリハビリテーションロボットについての医学的知見を踏まえた着想をもとに、京都工芸繊維大学で制御アルゴリズムが構築され、サンコール株式会社と大日本印刷株式会社が中心となって機器を開発。機器の評価は京都大学、佛教大学および関西医科大学で実施した。
画像はリリースより
同機器の使用で「歩行速度が上がる」「歩幅が広くなる」効果
同機器は、駆動用モーターの内蔵されたOrthobot本体ユニット、充電池と操作パネルが搭載された腰ベルトユニットで構成されていて、一般的に脳卒中後の歩行リハビリで使用するKAFO(長下肢装具)に同機器をアドオンすることで、KAFOが最新のリハビリ用ロボットに変化する。駆動部や制御部の最適化により、Orthobot本体ユニットは約1.2kg、腰ベルトユニットは約1.8kgと、軽量に仕上がっている。腰ベルトユニットは介助者が持つことも可能で、装着者への負担を最小限に抑えたという。アシスト設定は、3つのプリセットモード(標準・引掛り防止・歩幅アップ)から、目的のモードを選ぶだけで使用可能。また、カスタムモードを使用することにより、より高度な設定もできる。
同機器のアシスト制御は、歩行中の適切なタイミングで膝関節へのアシストトルクをモーターによって加えるように設計されている。制御システムは機器使用者の大腿部(Orthobot 本体ユニット)に搭載された大腿姿勢を計測する姿勢角センサー、大腿部の姿勢角から歩行状態を推定しアシストのタイミングを決定する位相角生成器、アシストトルクの出力パターンを決定するトルクテーブルから構成され、姿勢角センサーから得られる大腿部の動きに関する情報のみに基づいて、どのような歩幅、歩行速度での歩行においても、最適なトルクタイミングでのアシストを可能とした。同機器の使用により、装置駆動前に比べて歩行速度が上がり、10m歩行での歩数が減る、すなわち歩幅が広くなるという結果が得られたという。また、足部軌跡の観察からも、装置駆動前に比べて足が上に挙がり、歩幅(ストライド長)が大きくなるという結果が得られた。
研究グループは今後、特定臨床研究を実施し、同機器の効果検証を一層高め、より高度な医療向け機器の開発を行っていくとしている。
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・京都大学 プレスリリース