発症すると不可逆的な重度の視力低下を起こす「CRAO」
東北大学は12月11日、重度の視力低下を起こす網膜中心動脈閉塞症(CRAO)に対し、世界で初めてカルパイン阻害剤を網膜神経保護薬として使用する医師主導治験を、2019 年12月より実施すると発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科眼科学分野の中澤 徹教授、津田 聡助教らの研究グループによるもの。
画像はリリースより
CRAOは網膜中心動脈の閉塞により、急激な視力低下・視野障害が生じる急性の虚血性眼疾患。2018年度の国内推定患者数は2,500人前後とされ、希少疾患に分類されている。発症頻度は10万人に1人とされ、現在までに科学的に効果が認められた治療法は存在せず、発症後早期に神経細胞を保護することが重要と考えられている。
眼圧負荷による網膜神経節細胞死に抑制効果を示すカルパイン阻害剤
動脈が詰まった時や血液の流れが改善した時、網膜神経節細胞内のカルシウム濃度が異常に上昇してタンパク質分解酵素であるカルパインが過剰に活性化し、網膜神経節細胞の細胞死が誘導される。これらの細胞死を抑制すると考えられているのがカルパイン阻害剤だ。その作用は選択的かつ可逆的で、活性化したカルパインの活性中心に入ることにより、酵素活性を阻害する。これまでの検討結果でも、摘出サル網膜の低酸素培養やラットにおける高眼圧負荷による網膜神経節細胞死に抑制効果を示すことが明らかになっている。
今回、カルパイン阻害剤の健常成人での安全性が確認されたことから、虚血・再灌流障害により網膜神経節細胞死が誘導され、不可逆的に視覚障害を起こすCRAOを対象として、2019年12月より、安全性と有効性評価のための医師主導治験を開始することが決定した。
研究グループは、「網膜神経保護治療を確立させることで、失明原因第1位の緑内障などのその他の網膜疾患に対する治療への展開が期待される」と、述べている。
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