抗がん剤投与2~5日目以降も制吐効果が持続する療法の治験
静岡県立静岡がんセンターは12月12日、抗がん剤治療による吐き気・嘔吐を抑える新たな制吐療法の有用性を、医師・薬剤師主導のP3ランダム化比較試験:J-FORCE試験(J-SUPPORT 1604)で明らかにしたと発表した。これは、同センターと国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院を中心に全国30施設からなる研究グループによるもの。成果は「The Lancet Oncology」に掲載されている。
画像はリリースより
抗がん剤治療がもたらすさまざまな副作用のうち、悪心・嘔吐は半数以上の患者が経験。肺がんや食道がん、子宮がんなどで標準治療として使われている「シスプラチン」は、催吐性リスクが90%以上と高く、投与後数日間にわたり車酔いのような状態になることが知られている。現在の標準的な制吐療法での嘔吐完全抑制割合は、シスプラチンの投与後24時間の急性期(投与当日)は約90%だが、24時間以降の遅発期(投与2~5日目)では約65%に下がるため、持続的な抑制効果の維持が課題とされている。
静岡がんセンターではこれまでに、標準制吐療法に対する「オランザピン」5mgの上乗せ効果を検証したP2試験を実施。その結果、上乗せにより制吐効果が高まることを示していた。同薬は非定型抗精神病薬で、米国を中心に行われている研究から制吐有効性は明らかとなっている一方、10mgという高用量を用いており、眠気やふらつきといった副作用が強く、安全に使用できる十分な根拠に乏しいため、日本や欧州では普及に至っていない。また、国立がん研究センター中央病院薬剤部が中心に行ったランダム化P2比較試験で、海外の標準用量であるオランザピン10mgに対して5mgでも同等の効果が得られるかを検証し、5mgは10mgと同等の効果が得られ、かつ、10mgよりも副作用の眠気が軽いことがわかっていた。これらP2試験の結果を踏まえ、研究グループはP3試験を計画した。
オランザピン5mgを夕食後に服用で嘔吐完全抑制率が改善
P3試験の対象は、全国30施設の抗がん剤(シスプラチンを含む)治療を初めて開始する、肺がん、食道がん、子宮がん等の患者710人。半数ずつにランダムに振り分け、一方には標準的な制吐療法(アプレピタント+パロノセトロン+デキサメタゾン)に加えて、オランザピン5mg。もう一方は、標準療法+プラセボであった。オランザピンの内服時間は、就寝前ではなく「夕食後」とした。患者には症状日誌を記録するよう指導した。急性期と遅発期と全期間(急性期+遅発期)における3つの指標で評価。主要評価項目は遅発期の嘔吐完全抑制とした。
結果、遅発期の嘔吐完全抑制(CR)割合は、オランザピン群 79%、プラセボ群 66%。その差は13%であり、より有効な新たな治療と認められる国際的な基準である「10%以上の改善」を満たした。また、急性期の悪心嘔吐総制御(TC)割合を除く全ての副次評価項目においても、オランザピン群が有意に良い成績であったことが確認された。
また、「日中の眠気」については、オランザピン群とプラセボ群とで大きな差はなかったが、 「不眠なし=良眠」の頻度はオランザピン群の方が高かった。オランザピンの内服時間を従来の就寝前から夕食後にしたことで、就寝時には副作用である眠気がむしろ良眠につながり、翌日の日中には眠気が残りにくいということが示唆された。また、「食欲低下」についてはオランザピン群が有意に低い結果となり、食欲低下を軽減する効果も示唆された。
研究グループは、「オランザピンによる翌朝の眠気やふらつきを抑えながら、高い悪心・嘔吐抑制効果を確認できたことにより、この制吐療法が新たな標準的な制吐療法として国際的に採用されることが期待される」と、述べている。
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・静岡県立静岡がんセンター プレスリリース