筋痛性脳脊髄炎と慢性疲労症候群に特有の病態を探索
三重大学は12月11日、慢性疲労症候群の診断に使用できる可能性がある、血中の細胞外小胞およびそのタンパク質(バイオマーカー)を発見したと発表した。これは、同大大学院医学系研究科の江口暁子講師、関西福祉科学大学健康福祉学部の福田早苗教授(大阪市立大学客員教授・理化学研究所客員研究員)、倉恒弘彦教授(大阪市立大学客員教授・理化学研究所客員主管研究員)、理化学研究所生命機能科学研究センターの渡辺恭良チームリーダー(大阪市立大学名誉教授)、カリフォルニア大学サンディエゴ校のAriel E. Feldstein教授らの研究グループによるもの。成果は「Brain,Behavior and Immunity」にオンライン掲載された。
画像はリリースより
筋痛性脳脊髄炎(Myalgic encephalomyelitis、以下ME)および慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome、以下CFS)は、原因不明の強度の疲労・倦怠感により半年以上も健全な社会生活が過ごせなくなる病気。通常の診断や従来の医学検査では、ME/CFSに特徴的な身体的異常を見つけることができず治療法も確立されていない。これまでに、ウイルスの活性化や自律神経の機能異常等を指標としたものなどが、ME/CFSのバイオマーカーとして提案されてきたが、これらは他の病態でも見られるため、ME/CFSの診断が難しく、特定できないという問題があった。そのため、よりME/CFSの病態メカニズムを反映し、客観的な診断を一般の医療施設でも可能にするバイオマーカーの確立が望まれている。
患者血液で血中細胞外小胞のタンパク質成分が高値、亜急性疲労/うつ病との判別も
研究グループは、ME/CFS患者と健常者の血漿サンプルを採取し、フローサイトメトリーやプロテオミクス解析を行った。結果、ME/CFS患者は健常者と比較し、血中の細胞外小胞の数値が高いことが確認された。また、血中の細胞外小胞の成分を解析した結果から、ME/CFS患者はtalinやfilaminを含むアクチンネットワークを構成するタンパク質の数値が、亜急性疲労(疲労症状を有するものの6か月以上継続しない)患者や、うつ病患者と比較しても高いことを発見した。
これらの成果により、血中の細胞外小胞のタンパク質成分をバイオマーカーとして用いることにより、ME/CFSの客観的な診断が可能になり、これまで診断を区別することが難しかった亜急性疲労患者、うつ病患者との判別も可能になると考えられる。また、慢性的な疲労の自覚はあってもME/CFSを発症していない人での解析も行い、詳細な疲労病態の解明に向けてさらなる検証をしていく必要がある。「将来的には、簡便に測定できる手法を開発し、一般の医療機関でも検査できるよう医療システムを構築していきたい」と、研究グループは述べている。
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