ダニによるアトピー性⽪膚炎の発症メカニズムは、まだ十分に解明されていない
筑波大学は12月7日、ダニが引き起こすアトピー性皮膚炎を抑制する分子を世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大生存ダイナミクス研究センターの渋谷彰教授と医学医療系の金丸和正助教らが、産業技術総合研究所の舘野浩章上級主任研究員と共同で行ったもの。研究成果は、⽶国科学誌「Science Immunology」のオンライン速報版で公開された。
画像はリリースより
日本のアトピー性⽪膚炎患者数は年々増加しており、25年に比べて倍の、およそ50万⼈と推定されている。特に⼩児では、10%以上がアトピー性⽪膚炎に罹患しているとされている。アトピー性⽪膚炎を含めた通年性アレルギー性疾患の原因として、ダニがおよそ8割を占めるとされているが、ダニによるアトピー性⽪膚炎の発症メカニズムは、まだ十分に解明されていない。
アトピー性⽪膚炎の治療には、副腎⽪質ホルモン(ステロイド)の外⽤や内服、また免疫抑制剤等が使われている。しかし、免疫抑制による感染症や局所の⽪膚萎縮などの副作⽤があることや、これらの薬剤が効かない難治性アトピー性⽪膚炎の患者が多いことが⼤きな問題となっており、副作⽤が少なく、より効果的な治療法の開発が待たれている。
皮膚マクロファージのClec10a(Asgr1)が抑制、新たな治療薬開発に期待
日本で樹⽴された近郊系マウスの「NC/Ngaマウス」は、通常環境下で、アトピー性⽪膚炎を⾃然発症する。また、病原体フリーの環境下でチリダニ抽出液(HDM)を⽪膚に塗布すると、他マウス系統に⽐べて⽪膚炎が著明に悪化する。しかし、NC/Ngaマウスのアトピー性⽪膚炎の発症機構は、⻑らく謎だった。今回研究グループは、NC/Ngaマウスの全エクソーム遺伝⼦解析を⾏い、7万個余りの遺伝⼦変異を発見。その中から、⽪膚のマクロファージに発現するClec10a(ヒトではAsgr1)という遺伝⼦の変異が、ダニによるアトピー性⽪膚炎発症の原因遺伝⼦であることを突き⽌めた。
Clec10aを⽋損するマウスを解析したところ、このマウスは、野⽣型マウスと⽐べて、ダニによるアトピー性⽪膚炎が発症しやすいことから、Clec10aがダニによるアトピー性⽪膚炎を抑制することが明らかになった。 驚くべきことに、ダニの成分には、アトピー性⽪膚炎を誘導する分⼦の他に、Clec10aと結合するムチン様分⼦が存在しており、これをダニから抽出し、アトピー性⽪膚炎に直接塗布すると、症状が軽快することを⾒出した。さらに詳細な解析を⾏った結果、ダニにはアトピー性⽪膚炎を誘導する分⼦として、LPS(エンドトキシン) と、これを抑制するムチン様分⼦が含まれており、LPSが⽪膚のマクロファージを活性化し、アトピー症状を引き起こすのに対して、ムチン様分⼦がClec10a(Asgr1)を介して、これを抑制していることがわかった。
研究グループは、「Clec10a(Asgr1)が結合するムチン様分⼦は、これまでにない新しいコンセプトのアトピー性⽪膚炎の治療薬として有望。今後、最も効果的なムチン様分⼦をスクリーニングし、これを製剤化することで、従来の薬剤で効果がなかった患者にも、新たな治療薬の選択肢を提供できることが期待される」と、述べている。
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