薬剤性急性肝障害は、仕組みが完全に解明されておらず予防法もまだない
筑波大学は12月4日、薬剤の副作用による急性肝障害を抑制する新しい細胞の働きを世界で初めて発見したと発表した。この研究は、同大生存ダイナミクス研究センターの渋谷彰教授、鍋倉宰助教らの研究グループによるもの。研究成果は、⽶国科学誌「Immunity」のオンライン速報版に掲載されている。
画像はリリースより
薬剤の代謝は肝臓で⾏なわれることが多く、さまざまな代謝産物が肝臓に出現するため、副作⽤として肝障害が多いと考えられている。実際に、総合感冒薬、解熱鎮痛薬、抗⽣物質、抗がん剤、漢⽅薬など、普段使われる多くの薬剤の副作⽤の中で、急性肝障害は最も多いもののひとつ。重篤なものでは死亡するケースも⾒られることから、早期発⾒、早期対策が重要だ。しかし、薬剤の副作⽤による急性肝障害がどのように発症するかについては未解明の点が多く、またそれを予防する⽅法は現在のところない。
⼀⽅、ここ数年で、肝臓内に1型⾃然リンパ球(ILC1)と呼ばれる特殊な細胞が存在することがわかってきた。しかし、その数は肝臓に存在する免疫細胞のおよそ2%前後で、肝臓を構成する肝細胞のわずか200分の1程度しかない。しかも、ILC1の肝臓における働きはほとんどわかっていなかった。
ILC1<IFNγ産生<Bcl-xL発現増加<肝細胞死低下<肝障害抑制
今回、研究グループは、薬物の副作⽤による急性肝障害の発症の仕組みを明らかにする⽬的で、ILC1に着⽬。急性肝障害を誘導する薬物として四塩化炭素(CCl4)を⽤いた。CCl4を投与した野⽣型マウスでは、投与前と⽐べてILC1の割合に変化はなかった。また、CCl4を投与した野⽣型マウスでは、肝障害マーカーであるALTという酵素が上昇したが、肝臓でILC1が激減しているマウス(Zfp683-/-)では、野⽣型マウスの4倍ほど⾼いALT値を⽰し、急性肝障害が顕著に悪化した。この結果は、ILC1が薬剤性急性肝障害を抑制することを⽰す。
次に研究グループは、ILC1が薬剤性急性肝障害を抑制するメカニズムを解明するために、ILC1が産⽣するインターフェロンγに着⽬。薬剤投与後、活性化したILC1は、徐々にインターフェロンγの産⽣を増加させた。⼀⽅、インターフェロンγを⽋損するマウスでは、野⽣型マウスに⽐べて、肝障害がより悪化し、同時に、細胞死抑制分⼦であるBcl-xLの発現も低下した。ILC1 が薬剤性急性肝障を抑制することをさらに確認するために、ILC1が存在しないマウス(Rag2-/- Il2rg-/-)に薬剤を投与したところ、重篤な肝障害が出現したが、このマウスの肝臓の静脈にILC1を移⼊し、肝臓にILC1を定着させると、薬剤を投与しても肝障害はほとんど起きなかった。以上の結果から、ILC1は薬剤により肝障害が発⽣するとインターフェロンγを産⽣し、肝細胞内で細胞死抑制分⼦であるBcl-xLの発現を増加させ、肝細胞死を低下させることで肝障害を抑制することが明らかとなった。
今回の研究は、これまで不明であった肝臓内のILC1の機能、および薬剤性急性肝障害の発症をILC1が抑制することの2点を世界で初めて明らかにしたもの。研究グループは、「今後、ILC1の機能を亢進させる薬剤を開発することにより、薬剤性急性肝障害の予防法の開発につながることが期待される」と、述べている。
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