非特異的腰痛で診断が難しい「腰部癒着性くも膜炎」
東京大学は12月5日、MRI検査を仰臥位と腹臥位によって行うことにより、くも膜炎を診断できることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院麻酔科・痛みセンターの住谷昌彦准教授、土田陸平医師(医学博士課程4年)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pain Practice」に掲載されている。
画像はリリースより
腰痛は日本人で最も多い疾患だが、そのうち約20%がはっきりとした病因がわからないため適切な治療が難しいとされる「非特異的腰痛」である。この中には腰椎の手術が成功したにもかかわらず痛みが残ったり、画像診断では腰椎の狭窄がないのに、手術後に徐々に痛みやしびれが再発した患者も含まれている。
また、非特異的腰痛の中には、腰椎によって構成される脊柱管のさらに内側を走るくも膜下腔という神経のトンネル状の通り道の中で、神経同士あるいは神経とトンネル壁(硬膜)が癒着することによって痛みやしびれが起こる「腰部癒着性くも膜炎」が含まれている可能性がある。腰部癒着性くも膜炎は、一旦発症すると、長きに渡りQOLが低下し、激しい痛みに苦しめられる。しかし、同疾患の診断基準は、現段階では存在せず、非常にまれな疾患として認識されている。
仰臥位と腹臥位のMRI検査で、くも膜下腔内を走行する神経の位置を比較
研究グループは、診断のつかない腰痛に悩む患者の中に、腰部癒着性くも膜炎を疑う患者がある一定数いることを発見。MRIを用いて診断アプローチの研究を行った。
まず、腰部癒着性くも膜炎がある患者とない患者に、MRI検査を実施。MRIは通常、仰向けでしか撮影しないが、うつ伏せでも撮影を行い、背骨の中にある神経が通るトンネル内で、重力に応じた神経の動きを可視化した。その結果、腰部癒着性くも膜炎の患者では、重力によって神経が腹側に降りて来ず、神経同士と神経とトンネル(硬膜)壁が癒着していることがわかった。
今回の研究成果により、MRI検査を仰臥位と腹臥位で行い、くも膜下腔内を走行する神経の位置を比較することにより、腰部癒着性くも膜炎を診断(神経同士あるいは神経とトンネルの癒着を発見)できることが明らかになった。MRI検査は被曝しない非侵襲的な検査であるが、撮影時の体位変換で早期に診断がつくことで、患者のQOLを落とさず、複数の医療機関を受診せずに済み、医療費の軽減にもつながると思われる。
研究グループは、「今後は、腰部癒着性くも膜炎が神経障害により痛みを引き起こしていることを採血や髄液検査によって定量的に評価し、MRI検査と組み合わせることで、より正確に癒着性くも膜炎の診断がつけられるようにしたいと考えている」と、述べている。
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