男性よりも成長が早く、瘤も破裂しやすい女性の腹部大動脈瘤
近畿大学は12月4日、腹部大動脈瘤の成長速度に男女差がある原因の一端を解明したと発表した。この研究は、同大農学部応用生命化学科・応用細胞生物学研究室(森山達哉教授)の元大学院生の宮本智絵氏(現、シオノギテクノアドバンスリサーチ株式会社)と同大農学部応用生命化学科の財満信宏准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、Scientific Reportsに掲載された。
画像はリリースより
腹部大動脈瘤は、腹部大動脈が進行的に拡張することを主病変とする疾患で、司馬遼太郎やアインシュタインの死因となった疾患としても知られる。世界的に、女性患者よりも男性患者数の方が約4倍多いとされ、米国や英国では、65歳以上の男性に対して腹部大動脈瘤検診が行われている。一方で、女性の腹部大動脈瘤は、男性よりも成長が早く、瘤も破裂しやすいという性差がある。しかし、この性差が生じる理由は明らかになっていなかった。
卵巣除去で血管線維成分を破壊するタンパク質が増加し、線維成分の質と量が低下
同研究では、女性特有の臓器である「卵巣」に着目。卵巣を除去した雌動物では、腹部大動脈瘤の発症率が上昇し、形成される瘤の大きさも大きいことがわかった。血管病理解析の結果、卵巣除去によって、血管機能の維持に重要な血管線維成分(弾性線維・膠原線維)を破壊するタンパク質が増加し、線維成分の質と量が低下することが判明。加齢とともに卵巣機能が低下することにより、もともとの血管が弱くなることが、腹部大動脈瘤を発症すると成長速度や破裂率が上昇する原因だと考えられる。
今回の研究により女性患者の腹部大動脈瘤には男性とは違う素因が存在する可能性が示された。従来の研究で用いられていたモデルの多くは雄動物であったが、研究グループは今後、雌動物を解析することで女性の腹部大動脈瘤対策に有効的な手段を検討していくという。卵巣機能の低下は女性特有の現象であり、「今後は女性の血管劣化を予防する治療薬や食品成分発見への研究展開が期待される」と、研究グループは述べている。
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