肝動脈塞栓療法とソラフェニブの併用、過去臨床試験の失敗を教訓に新たな基準で
近畿大学は12月4日、肝細胞がんに対する「肝動脈塞栓療法」と分子標的薬「ソラフェニブ」の併用療法に関する臨床試験の結果を発表した。これは、同大医学部内科学教室消化器内科部門の工藤正俊主任教授らの研究グループが行ったもの。成果は、消化器分野の専門誌「GUT」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
肝細胞がんは、日本人のがん死亡原因の第5位で、毎年約2万8,000人が死亡する難治がんの一つ。肝細胞がんのステージは、ステージ1早期肝がん、ステージ2切除不能多発肝がん、ステージ3進行肝がん、ステージ4末期肝がんに分類される。ステージ2の標準治療である肝動脈塞栓療法(以下、TACE)は、肝臓内の血管である肝動脈を塞ぐことで、がん細胞に栄養を与えずに死滅させることを目的とした治療法。ステージ2は進行がんや末期がんへの移行を防ぐための重要なステージだが、標準治療がTACEしか無く、症例によっては効果が乏しい場合もあるため、新しい治療法の開発が望まれている。
ステージ3で使用される分子標的薬とTACEを組み合わせ、TACEの治療効果を向上させることを目的とした臨床試験が世界でこれまでに5試験(ソラフェニブ使用は内3試験)行われたが、TACEを上回る結果は得られていない。過去臨床試験を分析した結果、がんの進行判定とソラフェニブ投与のタイミング(TACE後)に問題があるとわかった。そこで、研究グループはこの2つの要因を克服するため、TACEに合わせたがん進行の判定基準を新たに作り、治療を長期間実施できるよう臨床試験デザインを調整。ソラフェニブをTACEの前から投与開始する試験を行うことにした。
見直されたポイントの詳細は次の通り。1)日常診療で用いられている基準をもとに、増悪の基準として、「UnTACEable progression(TTUP)」という概念を世界で初めて考案し、この増悪基準に達するまでソラフェニブを継続投与。2)TACEの後の虚血状態の腫瘍から放出されるVEGFの上昇が増悪の原因であるため、これを防ぐため初回のTACEの2~3週間前からソラフェニブを先行投与。
肝機能温存の延長、無増悪生存期間でTACE併用は2倍近く延長
研究グループは、無作為化割り付け前向き比較試験「TACTICS試験」を実施。結果、過去3試験のソラフェニブの投与期間と比較して、投与期間は38.7週間と劇的に長くなった(過去3試験では17~21週間)。これに加え、ソラフェニブを2~3週間前から先行投与することにより、TACEとTACEの間隔が併用群の方で有意に長くなり、肝がん患者にとって最も重要な肝機能温存を達成することができた。さらに併用群の脈管浸潤や遠隔転移出現までの期間を有意に延長させ、進行肝がんになるまでの時間も延長することができた。また、無増悪生存期間について、TACE併用療法は、TACE単独と比較して約2倍近くを延⾧された(併用群25.2か月、単独群13.5か月、ハザード比0.59、p=0.006)。
研究グループは、「この新しい治療法は無増悪生存期間延⾧効果を証明したことにより世界の肝がんの治療体系を大きく変え、新しい標準治療法として位置づけられることが期待される」と、述べている。
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