広まりつつある認知症カフェの運営方法や効果について調査
藤田医科大学は12月5日、2016年度に世界で初めて行った、認知症カフェに関する大規模調査の結果を発表した。この研究は、同大の武地一教授(認知症・高齢診療科)と認知症介護研究・研修仙台センターらが共同で行ったもの。研究成果は「JAMDA(Journal of the American Medical Directors Association)」に掲載されている。
高齢化に伴い、日本国内での認知症患者は増加しており、2025年には約700万人(高齢者の5人に1人)になると推測されている。認知症は不安や意欲喪失を長期にわたって引き起こし、日常生活能力の低下も伴う。また家族にとっても、見守ることの難しさなどから、重い介護負担を生じやすい疾患だ。病気を理解し、受けとめることの難しさから、地域住民にとっても偏見の大きい疾患とされている。認知症が中等度位に進行した時点で介護保険サービスを利用することが一般的になりつつあるが、病気に気付き始めの頃や、物忘れ外来などで診断を受けた当初は、日常生活に大きな支障がないように見えることなどから、病気になった本人の不安を受けとめたり、家族が接し方を相談したりする場所は未整備で、「初期の空白期間」とも呼ばれる。また、早期診断早期絶望と言われることもあり、早期診断後の心理・教育的支援の重要性が指摘されていた。
認知症カフェは、1997年にオランダで開始されたアルツハイマーカフェが発端とされており、世界中に広がりを見せているものの、どのように実施され、どのような人に、どのような効果があるのかについては、十分に示されていなかった。
日本では2012年に提唱されたオレンジプランによって、本格的に国を挙げての認知症施策が始まった。その一環として、オランダで始まったスタイルを取り入れて、認知症の人とその家族を支援することを目的に、気軽に立ち寄れて、地域の人たちのつながりを作るきっかけになる新しい場所として、地域に認知症カフェを設置することが推奨された。2015年1月に改訂となった新オレンジプランによっても認知症カフェの活動が推進され、2018年度末には全国7,000カ所の認知症カフェが開かれている。日本でも、認知症の人と家族、地域住民、専門職等の誰もが参加でき、集う場であるとの定義はあるものの、具体的な運営方法や効果については、実施者の裁量に委ねられているのが現状だ。
認知症カフェの開催頻度・内容などが明らかに
今回の研究は、2016年度厚生労働省老人保健健康増進等事業(老健事業)によって行われた「認知症カフェの実態に関する調査研究事業」(国内1,477カ所の認知症カフェが回答)をもとに、世界で初めて認知症カフェに関する大規模なデータ解析を行ったもの。
今回1,477カ所のうち、回答が有効だった1,335カ所を分析し、開催頻度については1か月に1回のカフェが64.8%と最も多く、1回あたりの開催時間は2時間が53.8%と最も多いことが示された。認知症カフェには、認知症の人、その家族、地域住民が参加し、運営者による評価では、認知症の人にとっては開催頻度がより頻繁で、コンサートなどの催しがあることが、カフェの有効性に関係していた。一方、認知症の人の家族にとっては、開催頻度は有効性には関係がなく、カフェで専門職と相談が出来ること、同じ立場の人同士で話し合いが出来ることが効果に関係していた。これらの結果から、認知症やその家族ではない地域住民にとっては開催頻度が多く、認知症に関する講話があることや、専門職に相談できることが効果と関係していることが示された。いずれの人にとっても、同じ立場の人が多く参加していることが効果に関係していることも示された。
また、それぞれの認知症カフェでは、認知症の人、その家族、地域住民と、主に3者の立場やニーズの異なる人が参加・交流することから、どのように運営するのが望ましいか、これまで十分に根拠が明らかにされていなかった。今回の研究の結果により、「カフェによって割合は異なるものの、3者が参加し、1か月に1回、2時間というかたちで実施されることが主流」「認知症カフェの源流とされるオランダのアルツハイマーカフェでは、内容として30分ごとなどに区切ってミニ講話、話し合い、コンサートなど、いくつかの行事が2時間のあいだに行われてきたが、そのように運営することで、いずれの立場の人の望みも「黄金比」のように叶えていると推測される」という2つのことが主に明らかになった。ただし、それぞれの運営者の考え方や、それぞれの地域や参加者のニーズに合わせて、カフェの開催や内容にはバリエーションが生じるであろうことも考察されている。
認知症カフェは今後、高齢化が進む世界各国で実施されることが増えていくと予想されており、今回の研究成果が多くの地域での実践につながることが期待されている。
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・藤田医科大学 プレスリリース