生体環境により近い「湿潤状態」における圧電性はほとんど調べられていなかった
東京農工大学は12月2日、アキレス腱や大動脈などの線維状の生体軟組織が超音波により電気的に分極することを発見し、生体環境に近い湿潤状態において、その電気分極の画像化に成功したと発表した。この研究は、同大大学院工学研究院先端物理工学部門の生嶋健司教授らの研究グループによるもの。研究成果は、米国物理学会の学術誌「Physical Review Letters」に掲載され、Editors’ Suggestionに選ばれている。
画像はリリースより
骨に圧力が加わると電気分極が発生することは、半世紀以上前に発見され、骨の健康状態や治癒との関係性が注目されている。しかし、骨以外の柔らかい生体組織の圧電性についてはまだ十分に明らかにされていない。また、測定上の困難さから、多くの研究は「乾燥した」生体組織に限られ、生体環境により近い「湿潤状態」における圧電性についてはほとんど研究されていない。身体におけるさまざまな組織や臓器における圧電性が明らかになれば、その圧電性を通した医療診断の可能性が期待される。
超音波を用いた独自の手法で生体軟組織で電気分極を観測、画像化も
研究グループはこれまでに、人間の耳には聞こえない高い周波数で振動する音である「超音波」の圧力(音圧)によって誘起される電気分極や磁気分極を調べる方法(音響誘起電磁法)を開発してきた。今回、研究グループは、アキレス腱、大動脈壁、大動脈弁などの線維状の生体軟組織に対して、超音波によって誘起される電気分極を観測し、音圧と電気分極の大きさが比例関係にあることを実証した。また、脂肪組織や心筋などの非線維状組織では電気分極が小さい(圧電性が小さい)こともわかった。これらの結果から、コラーゲンやエラスチンを主成分とする線維状の生体組織は比較的大きな圧電性を有していることが示唆されるという。さらに今回の研究では、生体環境に近い湿潤状態において、超音波によって誘起される電気分極を画像化することにも成功した。
今回の研究により、湿潤状態における圧電性を超音波により画像化できるようになったため、今後、同技術は非侵襲医療診断への応用が期待される。「特に、腱や靭帯の診断、臓器のコラーゲン線維化を可視化する診断など、従来のエコー法とは全く異なる情報を画像化する新しい超音波医療診断に発展することが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京農工大学 プレスリリース