これまで解析困難だった精子の電気信号に着目
大阪大学は11月29日、マウスを用い、精子が「電気」を感じる特殊な仕組みをもっていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の河合喬文助教、岡村康司教授(統合生理学)らの研究グループが、同大伊川正人教授のグループ、東京医科歯科大学・佐々木雄彦教授のグループ、名古屋大学・藤本豊士教授、新潟大学・崎村建司教授、北海道大学・渡辺雅彦教授の協力を得て行ったもの。研究成果は、米国科学誌「Proc. Natl. Acad. Sci.U.S.A.」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
神経活動を見る「脳波」や、心臓の動きを調べる「心電図」に代表されるように、身体の至るところで「電気信号」が生成されている。こうした「電気信号」の生成・感知メカニズムは古くから研究されており、「電位依存性イオンチャネル」と呼ばれる分子が「電気信号」を感知することで、細胞内へのイオンの流れを引き起こすことが知られてきた。また、このような「電気信号」の感知システムは全ての細胞で共通しているものと考えられてきた。
研究グループはこれまでの研究で、「電位依存性ホスファターゼ(VSP)」という電位依存性イオンチャネルとは異なるユニークな分子を同定した。電位依存性イオンチャネルは「電気信号」を感知するとイオンの流れを引き起こすが、VSPはホスファターゼ活性と呼ばれる酵素活性を示し、「イノシトールリン脂質PIP2」という重要な生理活性分子の量を変化させることを明らかにしていた。また、以前よりVSPは精子に存在する可能性がマウスで示されていたが、細胞サイズなどによる技術的制約から詳細な解析が困難で、この分子がどのように精子の機能に関与しているのかは不明だった。
精子独自の「電気信号」が精子の運動機能に重要
今回研究グループは、独自の技術力の向上により、解析困難であった問題を克服。まず研究グループは、マウスを用いて精子の鞭毛にVSPが存在していることを発見した。このVSPを欠損した精子で解析を行ったところ、「イノシトールリン脂質」の量と分布に変化が生じ、その結果、精子の運動能にも異常が生じた。したがって、精子は自らの「電気信号」を酵素活性へと変換し、運動能の制御を行っていることが明らかとなった。
今回の研究成果は、将来的には不妊治療への応用にも期待されるもの。研究グループは、「この発見は、1世紀以上前から多くの研究者が着目してきた生体の「電気信号」のなかにも、まだまだ私たちの考えつかない奥深いメカニズムが存在している可能性を示唆している」と、述べている。
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